真実の水色の箱
19's Sound Factory
真実の水色の箱
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今日の業務報告をする為、昼に出張所へ出向いただけなのに、妙な土産ができてしまった。白に、光の加減で虹色が走る不思議な箱…荷物の未配送届けが軍の方にきてないかと聞かれたが、残念ながら帳簿を漁っても出てこない。やれやれ、困った事になった。
今日は夕方から夜まで門番として出向かねばならない。門番をしながらも、箱を取り出して悩む。クルクルと回しながら眺めていると、児童院が終わると遊びに来る子供たちが現れた。
「みーりーんー!遊びに来てやったぞ!!」
「よく来たな!諸君」
すっかり皆と打ち解け、砕けた話も出来るようになった。いつもの様に笑顔で向かい入れると、一人見覚えのない虎の獣人の少年が居た。
「こいつは最強の子分のみりんだ!みりん!こいつは今日児童院に転院してきたんだ!」
…誰が子分だ!と突っ込みたかったが、張り付いたように完璧な笑顔でお辞儀をする獣人の子が妙に気になった。何かどことなく…
今日は新しい仲間の為に特別にリヴァイアサンを造形し、皆を背に乗せてやった。かっこいい龍に興奮して皆はしゃいで遊び回った。しかし、彼だけは違和感があった。皆と同じ様に笑顔で龍と戯れているが…自然すぎて逆に不自然に見えて仕方がない。
夕闇が深まり蛍石や発光植物が輝き出す頃、一人、また一人と親が迎えに現れて帰っていく。
「君も早く迎えが来るといいんだが…」
すると、少年は複雑な顔を一瞬浮かべたがまたあの笑顔に戻り、ぺこりと頭を下げた。
「ここから近いので1人で帰れます。ありがとうございます。さようなら」
「待て。流石に暗いし私も共に行こう。皆を守るのもまた門番の仕事だからな」
みりんは先輩に声を掛け、一時門から離れる許可を得た。2人で並んで歩き出す。
「私も実はここに最近越してきてな。この街はどうだ?好きになれそうか?」
「はい、皆さん良くしてくれます。友達も、僕が住んでいる家の人も…」
「住んでる家の人?」
「……僕…実は…親が仕事中に事故で…居なくなってしまって…それで…」
少年が言うには仕事中の不慮の事故で、共働きだった親が亡くなってしまい、孤児となってしまった彼の面倒を誰が見るかで親族が揉めている所を見てしまったそうだ。その後、様々な親族の元を転々とするが、どの家にも事情があり長居が出来ず、最終的に親の友人が1人で住むキリエの街に流れ着いたそうだ。
「皆の邪魔はしたくないんで、1人で暮らせるように、早くお仕事したいです」
可愛らしい笑顔で明るく言い放つ少年。その明るさが余計に理不尽さと受けてきた心の傷や寂しさを物語っていた。…成程、妙な不自然さはここにあったのか。彼は幼い体に大人でも押し潰されそうな運命を背負っているのだ。最終的には最早親族ですらない家に世話になっている。迎えにも来ない…みりんは胸が痛くなった。少しでも彼が楽になれないだろうか…
そう思った瞬間、みりんの小カバンから音がした。開けるとあの箱が光を放っていた。驚いて取り出すと、光は少年とみりんを包んだ。
ゆっくり目を開けると、見知らぬ家で少年が泣いていた。近くの部屋では話し声が聞こえる。彼と同じ虎の獣人達が彼を誰が引き取るかで言い争っていた。…これは彼の過去の世界か?突然の事で頭が混乱するみりん。やがて話はついたようで、獣人の1人が少年の手を引き、皆で家を出ていった。ポカンとその様子を眺めていると、どこからか走る音が聞こえる。息を切らした男のホビットが少年の家を訪れたが、既に家はもぬけの殻だった。男はごめん…ごめん…と言って、写真を取り出した。そこには少年の両親と思しき男女が幸せそうに赤ん坊を抱いた写真だった。その3人の間で同じく幸せそうに2人の肩を抱く男が写っていた。
「皆でこの子を幸せにするって約束したのに…」
色々な人の涙を感じた。世界がアクアマリンの様にキラキラとした水色に満ちていく。眩しさに目を瞑りゆっくり目を開くと、アクアマリンがはめ込まれた鏡を持った少年と、さっきまで居た帰り道に立っていた。2人で混乱しながらも、さっきまで無かった鏡を覗き込んだ。そこには少年を心配するみりんと寂しさで大泣きする少年が映っている。…これは心を映し込む鏡の様だ…混乱したまま2人で目を合わせていると、聞き覚えのある足音が、走りよってきた。
「どこ行ってたんだ!あぁ、いや、遅くなってごめん!迎えに行ったらどこにも居なくて心配したぞ…あぁ、無事でよかった…」
家の前で写真を覗いていたあのホビットだった。少年は震えながら、恐る恐るその鏡を彼に向けて覗き込んだ。すると少年を力一杯抱き締め、心底心配している男が映っていた。少年は泣きながら彼に走りより抱きついた。力一杯抱き締める男。鏡に映っていたものがみりんも目の前にあった。それから、鏡はもう他の鏡と変わらない普通の鏡になったが、少年は大事そうにそれを抱えて、男と手を繋いで帰っていった。
次の日、貴方は出張所の前を通りかかると、ドアの小窓からむむむと面白い顔で水色の模様のついた虹色の箱と睨めっこするニフを見かけて、声をかける。
「みりんさんに渡した箱が何故かまた戻って来てしまって…届け先を見つけるの手伝ってくれません?」
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謎の箱を預かってください。
尚、このクエストのアンサーソングはそのまま次のクエストソングになります。
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