【外伝】サンタからのギフト
OCEAN TRAVELERS
【外伝】サンタからのギフト
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【外伝】サンタからのギフト
「クリスマスかぁ……」
そんな感じしないなぁ、と雪の降らない冷え切った夜空を見上げながら街中を歩く。ミヤとリイン、3人で買い物に来ていた筈が1人はぐれてしまうとは情けない。いい年して迷子なんて。子供か?
シャンシャンシャン……とクリスマス特有の音楽が絶えず流れている、カップルで溢れ返った人混みの中をゆらゆらと、流されるがままに歩く。
どん、と。真正面から人にぶつかるなんて思いもせずに
「んがっ……!?(;´༎ຶٹ༎ຶ`)」「いたた……」「ば!!ずみまぜん!!」
ほぼ反射的に相手の顔も見ずに頭を下げるがしかし、持ち上げた頭の先に相手の顎が待ち構えていたなどつゆ知らず、
「んでぇっ!!!(;´༎ຶٹ༎ຶ`)(;´༎ຶٹ༎ຶ`)(;´༎ຶٹ༎ຶ`)」「ッッ〜〜〜〜」
クリティカルヒット。二次被害とはこのことをいうのかと頭をおさえながら。今度は慎重に、「す、すみません、大丈夫ですか……」相手の顔を覗き込むと
「ナ、ナルセさん!?」「え……誰。」「嘘でしょ!?!誰ってwwwww」
なんと出会したのは、いつぞやのシャントラの面々が集結した場所にいた、クジラに属するナルセだった。本人は……覚えていないのか、眠たそうな目で顎をおさえながらこちらを睨んでいる。怖い。
「メリーーーー!!!!クルシミマァーーーーーース!!!!!」
今度はなんだ、と。互いの認識もままならないその場に、三次被害がなだれ込もうとしていた。
「あ、メリークリスマース!だったね、ごめんごめーんw」
いや、
「「誰。」」
さしもの僕も隣のナルセと声を揃えた第一声。
「あっれー?おかしいなぁ。」
つきちゃと、ナルセさん。だよね?と。
会ったことも話したこともない初対面の男。黄色の長髪を後ろで1つに結い、黒縁メガネにサンタ帽……見やると真っ赤な服に身を包んでいる……バイト中かな?そんな男から、まるで友人であったかのように馴れ馴れしく名を呼ばれる。背中をヒヤリと鋭利な物で突き付けられたようなその感覚に……
「あ、あと。それ、三次被害が惨事にならないようにしないと、」
ね?と。……戦慄する。この人、僕の心の声を……シャレにならない。…あれ?今度は僕、口に出して言ってないよね?大丈夫だよね?いつぞやのリインに聞かれちゃった時みたいなことになってないよね?よし。
「あ、あなたは誰、ですk」「よぉーし!んじゃこれ」
はい、プレゼント!と突然包箱を渡される。僕の思惑が聞こえているのかいないのか…。完全に巻き添えを食らったナルセも渋々それを受け取り、
「あの、もういいですかね。」わかる!!そうなりますよね!!
早々に立ち去ろうと口を開くが
「ノンノンノン。」この男、まだ僕達を拘束しようと
「そこのゲーセンでシューティングゲームのオンライン大会があってね。僕、それに参加しようと思ってるんだけど」
「行きます。」「え、僕も行く。」
ゲーセンの呼び込みのバイトなのなんなのこの人。てかゲーム参加するの?もしやバイトさんじゃない説??でもゲーム気になるから即効返事をしましたよこちら。
人を手駒にとるようなその愉快さに、軽快さに、そして強く惹き付けられるような、内から滲み出るような圧倒的なその男の力に。自然と僕達は引き込まれていった。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「じゃあさっきのそれ、あけて!」
男から貰ったプレゼント箱。簡単なその包装を開けると、中から出てきたのは一丁の銃。
「へぁ!?」「あ、驚かんといてwこのゲームで使うやつね〜」
くるくると指先で銃を回しながら……って、あんたももっとるんかーい。というか初対面の僕らにゲームで必要なコントローラー配ってくれちゃうの、優しすぎない?どうなってんの?え、まさかの自腹?え、このゲーセンのバイトさんなの?確かにプレゼントっていう名目でもらえちゃうのすごく嬉しいけれど、普通に考えて赤字じゃない???
『レディース&ジェントルメン!!!!』
あ、ほらほら始まるよ。とポンポン肩を叩かれながらも、何となくオンラインゲームの大会に参加する流れとなる僕達。
『此度はこの「ゾンビキラー ザ・ナイト」にご参加いただき、誠にありがとうございます!!』
「安直なネーミングだな。粗方ゾンビを倒していくゲームだろ。」
すっかりゲーム廃人の顔に様変わりしたナルセがぼそりと呟く。あーあ、ガチだよこの人。この人にコントローラー持たせると1日どころか数日は部屋から出てこないって噂、知ってるんだからね僕。
『ルールは簡単!画面に現れるゾンビ達を』
ドカーーーン!!!と、派手な演出を見せる進行役。おお……とどよめく観衆を横目に「ほらな。」とナルセがこちらを見やる。読みが当たって何よりです、流石です。
「殺していけばいいんだね?」
フッ、と。サンタ男の一声で場の空気が変わる。
それは突然のことだった。
……灰。華やかに彩られたゲームセンター内は突如として鈍い灰の色と化し、軽快なリズムを奏でていたクリスマスのBGMはたちまちの内に不響和音へと変わる。
【キ、キサマ、】
先程まで進行役を務めていた男が一瞬の内に真っ黒な«影»へと変貌を遂げ、どよめいていた観衆の姿もまた、異形なる漆黒の矮躯をその場に晒す。
「バレバレなんだよなぁ。あんた」
サンタ男が悪びれもなくにこやかに。笑顔で、なんら警戒心の欠片も感じられない表情で飄々と語る。
「ゾンビとりがゾンビになっててどうすんのサ。」
ジャキリと撃鉄を起こすその音に、僕はハッと手元の銃を見る。
「本……も、の。」
「言ったろう?」
メリー、クルシミマス。って
サンタ男が笑ったその瞬間、―――彼の姿が消えた。
それと同時にパパパパパパパと軽快な程に心地の良い発砲音が鳴り響く。
…スッと、何事も無かったかのように元の位置に舞い戻ったサンタ男が一言。
「バンッ。」
指先を銃の形にして軽く振る。途端、ババババババババと先程より一層軽快さを増した音が、重みを増したその音が、命が弾ける軽くて重い音が、鳴る。鳴る。鳴る。
【ナ、、、】
数にして20あまりを瞬く間に消し去ったその圧倒的な力の前に、進行役だった«影»は勿論、僕も。ナルセも戦慄……
「やるねぇ……」
してないし。ちょ、待って?君もしかしなくても滾ってる?
「最高かよ。」ノリノリじゃん?まって??滾ってるよね??
「誰だか知らねぇが最高のプレゼントをありがとうよ。」
なんだか手馴れたように見えるその手つきで撃鉄起こさないでよ。そういうキャラだったのナルセさん???え???
「俺もいれろ。」
「いいねナルセさん……ちょうど僕もあったまってきたとこだよ。」
おーーーいーーー!!ちょっと2人とも何キメちゃってるのまって!?!僕なにゆえここにいるの!?あれっ?ゲームしに来たんだよね????えぇ!?!?(;´༎ຶٹ༎ຶ`)(;´༎ຶٹ༎ຶ`)(;´༎ຶٹ༎ຶ`)
【キ、キサマ、モシヤシャントラノ】
「あー僕は違うよ。ナルセさんとつきちゃはそうっぽいけどね?」
【ナンダト……】
シャントラ……その名を聞いても不思議がることなく、さも平然と分かっているかのようなその口ぶり。そして初対面の筈なのに僕達と友人であると言わんばかりに話すその態度。
読めない、この男。あの神達ともまた違う雰囲気を放っている。あなたは一体、誰……?
【シャントラデモナイ……マ、マサカキサマ…!ヤk】
「そろそろ黙ろうか。」
トン、と。いつの間にか«影»の頭部にヒラリと舞い降りたサンタ男が
「意外と短気なんだよ、俺。」
チラとナルセに目配せしたのと、彼女が«影»の頭部に弾丸を撃ち込んだのはほぼ同時だった。
断末魔をあげる暇もなくシュゥゥゥ…と蒸気を上げながら消滅していく«影»。
「それじゃあ、」
パキリと指を鳴らしたナルセがまわりをぐるりと見渡し、
「後片付けといきますかね。」
銃をくるくると回す。いいねと笑うサンタ男。
ああ、僕はゲームをしに来たんだけどな。その後の地獄絵図はもう割愛させていただこう。だってほぼその男とナルセが«影»達を倒しちゃったんだもの。僕はといえば、手負いで襲いかかってきた1匹に向かって発砲したくらいで、他は何もしていないんだもの。だってあまりにも2人がカッコよくて見とれていt……じゃなくて、迫力が凄まじかったからさ。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「おつかれ!」
色を取り戻した世界に舞い戻った僕達。まるでひとしきり遊んだあとの軽い挨拶のように。
「それ、あげるよ。メリークリスマス!」
ヒラヒラと手を振りながら、僕達に渡した銃を回収せずに、まるで何事も無かったかのようにサンタ男は行ってしまった。
「……結局誰だったんだろう。」「誰でもいいでしょ」
先程のランランと光り輝いていた目と、果たしてそれは同じ目なのかと疑うくらいの気だるい目をして。ナルセがふわと欠伸をひとつ。
「んじゃいくね。つきちゃももう夜遅いから気をつけてね。」
「知ってたんじゃん!!!!(;´༎ຶٹ༎ຶ`)(;´༎ຶٹ༎ຶ`)(;´༎ຶٹ༎ຶ`)(;´༎ຶٹ༎ຶ`)」
最後の最後にコケにされた!!!!!!!!そして何事も無かったかのように去っていくのなんなのナルセさん!?!?
「あ、いたいた。おーい!アカツキさーん!」
遠くから聞こえてくるリインの声にはっと我に返る。そうだ、僕迷子中でした。
無事ミヤとも合流し、クラゲの輪へと戻っていく。今さっきまで殺戮の現場にいたんだよって言ったら、2人は信じてくれるのかな……なんて思いながら。僕は2人の背を追いかけた。
┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈
「ナルセさん、思った通り強かったなぁ。つきちゃは変わってなかったなぁ……ふふ」
人足の少なくなった街中を1人、歩く。先程の場景を脳裏で反芻しながらふんふんと鼻歌を歌ったりなどして。
シャントラが結成されたと聞いて訪れたトウキョウ。何やら顔見知りの友人達も数名巻き込まれたと聞いて遊びに来てみたら、
「なんで僕のこと忘れちゃうかなぁ、つきちゃ」
少しガッカリしながらも頬が緩む。自然と、笑う。
「でも、」面白いじゃん。と、
知らないところでそんな面白いことしていたら、ちょっと邪魔したくなっちゃうじゃん。と、
そんな悪戯心を宿らせ。黄色の瞳の奥底に海の記憶を呼び起こす「青」をちらつかせながら。
男の足は、自分のことを知っているであろう……否、覚えているであろう4人の元へと向かっていた。
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いつか訪れるであろう自らに降りかかる災難など、当時の僕は思いもしなかったんだ。リインの重い一撃を食い止めた銃を握り締め、これをくれたあのサンタ男の事を思い出して……、僕は。
「メリー……クルシミマス……。ははっ、アハハっ、、」
……僕は。
僕は、仲間…………否、敵に向かって引き金を引いた。
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