拝啓 お父様へ
貴方の愛を俺は貴方が死ぬまで理解出来なかった。
母が死んだ後、直ぐに愛人を妻として娶った貴方の瞳には母の死に対する悲しみも情も一切映ってはいなかった。貴方にとって忘れたい事なのだろうか、母と良く似た俺を商人の家に養子に出す位には。
結局その家の養子になる事は無かったけれど、その代わりに俺は貴方の人生を終わらせてしまった。名家の当主なのに女に溺れる様などうしようも無い人で、俺の事も心底嫌いで。なのに貴方にまだ愛を望んでいる。それだけが自分でも分からない。愛の在り方を見失ってしまった。だから貴方の最期の愛も受け入れず、俺は貴方を嫌いだとしか言えなくなっていた。幻に等しい貴方からの愛を求めている癖に、俺は貴方の墓参りに1度も行けてはいない。だから、この敬語にも直せなかった手紙を渡せていないんだ。
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