窓から差す月光が2人の少女を照らしている。夜も更けた部屋、カサリと紙をめくる音の他は静かなものだ。立ち昇る紅茶の湯気が薄く空気に溶けている。その香りを楽しみながら、少女のうちの片方が口を開いた。
「ねえミッドナイト、何をそんなに難しい顔してるの?」
ミッドナイト、と呼ばれた少女は睨んでいた書類を机の上に置いて、小さな溜息を一つ。
「決行まであと3日でしょう。準備は念入りにしておかないとダメよ。」
そう答えたものの、彼女は気怠げに机に肘をつき姿勢を崩した。そして先ほどよりも大きい溜息を吐く。何故なら現在進行形で重大な問題が(と言っても頻度は少なくないのだが)起きているからだ。
「フロスティ、他の二人はどこに行ったか知ってる?」
紅茶を飲んでいた少女——フロスティは首を左右に振った。
「知らない。ホライズンはまた山籠りでもしてそうだけど、サファイアは目的地は言わないし一回出たら長いし……いつ帰ってくるんだろうね?」
もう予告状出しちゃったよー。
口を尖らせてフロスティはそうぼやいた。
そう、彼女たちは「普通」ではない。
その生業は怪盗。蒼い満月の空を背景に華麗に宝を盗み出す謎の4人組と、巷で話題になっている。その正体は誰も知らない。幻の青、‘PhantomBlue’。それが彼女たちの名前だ。
「全く、満月はもうすぐなのに……。うまくいくと良いけれど。」
「大丈夫だいじょうぶ、私たちに失敗なんてありえない。そうでしょ?」
「まぁ、確かにそれはそうだけれど。」
「今回の獲物も中々綺麗だったから楽しみ。二人とも早く帰って来ないかなぁ。」
自信に満ち溢れた会話。待っているのは成功だけ。
彼女たちは自分を疑わない。なぜなら天才である彼女たち4人はとりわけ蒼い月の夜の間「完璧」、だから。
天才に紡がれる幻は凡人を惑わし、束の間の夢を見せるのだ。
窓の外には真円からは少し欠けた白い月が何も言わずに浮かんでいた。
月が蒼く満ちる夜は、もう遠くない。
#PB #ユニット
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