2+2=4?
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2+2=4?
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気が付けば、初めてのレコーディングから一年もの時が流れていて。スタジオの圧迫感と窮屈さにも随分と慣れてしまったものだ。その日、和泉 風雅は新曲のレコーディングに臨んでいた。歌唱の収録は既に終え、最後のかけ声パートの確認待ち。ちらりとコントールルームの方へ目を向けると、林野 渚、雷 桃子、不知火 望の3人がサウンドエンジニアと一緒に音源を確認しているのが伺えた。
山田 大和が留学に行ってからもう数か月。留学直前、自分が盛大な勘違いをして暴走したことは少し恥ずかしいけれど、今や大切な思い出になっていた。それでも4人で過ごす度、そこに大和がいない、どこか足りない気持ちを再確認してしまい、寂しさが過ってしまう自分がいた。
そんなことを考えながらぼんやりとコントロールルームを眺めていると、渚が不意にこちらを見て手招きをした。合流すると、桃子が言った。
「渚さんは『今日のフーガのかけ声、なんだか寂しそうじゃない?』って言うんスけど、自分はいつも通りに聞こえるんス。風雅さんのかけ声はいつも控え目で、そこがいい味出してると思ってて、だから問題ないんじゃないかって。」
桃子の言葉に、渚が食い気味に反論した。
「だから、全然違うんだってばー!確かに控え目ではあるけど、いつも内心ではノリノリ!って感じで、こう、楽しそうな感じ!」
「まあこんな調子で、確認が難航してるっつーわけだ。ちなみに俺は桃と同意見。」
「だから、風雅本人に聞いて判断してもらおうと思って呼んだんだ!」
「なるほど……。とりあえず、あたしも自分で聞いてみるね。」
渚の言うことに心当たりはあったが、まずは自身の耳で確かめてみようと考え、重たいヘッドホンを装着する。そして聞こえてきた自身の声は、渚の言うとおりどこか寂しげだった。
「確かに、あたしが表現したかったのと違う。もっと楽しげに入れたつもりだった。」
あたしの言葉に、渚は何故かガッツポーズを決めた。
「ほら、やっぱり!」
「渚さんすごいッス!自分、全然気付けなかったッス……。」
「3人は俺らより長く活動してきてんだもんな。俺らも早く追いつかなきゃな、桃!」
落ち込んだ様子の桃子の背中を、望は軽く叩いた。
「そうッスね!自分たちも頑張るッス!」
1年ほとんど毎日一緒に過ごしている渚とあたしも、幼馴染の望と桃子も、それぞれに信頼し合っているんだと再確認する。だけど、今のSacreAは2人と2人で、ちゃんと4人同じ気持ちでいられているかな。このままでいいのかな。
こんな風に迷った時、いつもあたしたちを引っ張ってくれたのは大和だった。SacreAが3人と2人だなんて感じたことがなかったのは、大和が真っ先に動いてくれていたからだったのかもしれない。だけど今ここに大和はいなくて、かといって寂しさを感じるより先にやるべきことがある気がした。考えるより先に、言葉が走った。
「あのさ、2+2と4って、同じなのかな。」
その言葉に、3人はぽかんとした様子だった。当然の反応だ。考えや思いを伝えるって、こんなに難しいことだったんだと再確認する。
「えっと、ごめん。つまり、望ちゃんと桃子ちゃんは幼馴染で、渚とあたしも3人で長くユニット活動していて、だからあたしたちは4人だけど、実際はまだ2人と2人なんじゃないかなって思ったんだ。大和がいてくれた時はそんなこと思わなかったのに、変だよね。」
一歩一歩踏みしめるように、言葉を紡ぐ。あたしの拙い言葉の意図を汲み取ってくれたのか、3人の表情はとても優しかった。安心して言葉を続ける。
「それで、あたし桃子ちゃんや望ちゃん、もちろん渚のことももっと知りたいし、仲良くなりたくて。あたし、収録すぐ終わらせるから、このあとみんなで寄り道しようよ。」
「もちろん!フーガが誘ってくれたの、初めてじゃない?」
「自分も、風雅さんと渚さんのこともっと知りたいッス!」
「俺もだ!そうと決まればぱぱっと終わらせてこい、風雅!」
望に背中を優しく押された。ありのままの言葉を伝えるのは怖いけど、真っ直ぐ届くんだ。あたしはもう一人じゃない、大丈夫。
「うん、行ってきます!」
あたしはスタジオの扉をもう一度開けた。
BGM:口癖
脚本 :にゃう
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