affettoストーリー続き
脚本:LiLi
affettoストーリー続き
- 3
- 0
- 0
リク、もとい鈴がアイドル部に顔を出してみることが決まった翌日、鈴のクラスである2年F組に彼女の姿はなかった。
「…いない、ね。2-Fで合ってたよね…?」
自信なさげに姫梨が言った。
「合ってるはずなんだけど…なんでいないのかな…?朝だし、遅れて来るのかなあ…。」
みどりも困った表情を浮かべる。
「とりあえず、昼休みにお姉ちゃんと麗音ちゃんとも一緒に来てみよっか。」
.................................................
しかし、昼休みになっても教室に彼女が現れることはなかった。
「…ほんとに、いないんだね………。やっぱり無理やり誘ったからかな…?」
麗音の頭の上に、まるではてなマークが浮かんでいるように見えた。
「流石にそれは…ないと思うけど.......。見慣れた姿じゃないから見つけにくいのかしら。」
紅葉も困っているようだった。
全員が困り果てていたその時、体操着を来た女子達がすれ違ったのを見て姫梨が思いついたように、
「体育館…!皆!体育館だよ!!」
と言った。
.................................................
渡り廊下を通じて体育館の2階、アリーナ部分に着いた一同は、首を傾げた。
「ここに...鈴さんがいるの.......?」
みどりが不思議そうに呟いた。
「...ううん、ここじゃなくて...体育館の1階にある音楽室!ピアノが置いてあるから、もしかしたら、と思って.......!」
姫梨の言葉に、一同が頷く。
「確かに居るかもしれないわね。行ってみましょ!」
一同は音楽室へと向かった。
音楽室に着くとそこには姫梨の予想通り、鈴の姿があった。ピアノを弾き終わると鈴は一同に気づいたようだった。
「あ、皆さん.......。」
鈴の声のトーンはリクの時とはまるで別人のような、女の子らしく、そして少し困ったようなおどおどとした声だった。
「姫梨ちゃんの言う通りだったね。あと、鈴さん、リクくんの時とは全然違って「女の子」ってかんじです.......!」
みどりが鈴をじっと見つめる。
「あ...そ、そんなに見ないでください.......。この姿で居るの、あんまり、慣れてなくて..........。」
困った顔をした鈴の頬が赤く染まった。
「ちょっとみどりんっ、鈴ちゃんが困ってるよー。」
麗音の言葉にハッとするみどり。
「ご、ごめんなさい...!そんなつもりは...なかったんですけど..........。」
みどりが謝る。
「...それにしても、姫梨が急に『体育館』!なんて言うから何かと思ったけど...音楽室のことだったのね。」
紅葉が納得の表情を浮かべた。
「学校では時々音楽室でピアノを弾いてるんです。話すのは苦手...なんですけど...、ピアノだと不思議と感情が表現できるんですよね。朝も、ピアノ弾いてたんです。」
鈴は話すよりもピアノで感情表現をする方が得意なようだった。
「あははっ、鈴ちゃんらしいな~。そういえばうちの高校はリボンとネクタイ選べるけど、やっぱり鈴ちゃんはネクタイ派なんだねっ。」
麗音が鈴のネクタイに気づいたところで、お昼休みの終わりのチャイムが鳴った。
.................................................
放課後、一同はアイドル部の部室の前にいた。
「...ここは、最初にチラシに興味持ったひめりんが行くべきなのかな.......?」
麗音の言葉に、皆がこくこくと頷く。
「...うぅ、し、失礼しますっ!」
姫梨がドアを開けた。
「あ、姫梨!ドア開ける時はちゃんとノックしなさいよ.......!」
紅葉の言葉にハッとする姫梨。
「...あ.......、やっちゃった..........。」
姫梨の失敗はさておき、扉の向こうには前髪を流した赤いロングヘアスタイルの女子生徒と黄色いうさ耳風カチューシャを付けた青い髪の女子生徒、柔らかそうな紫色の髪を二つに結っている眠たそうに目を擦る女子生徒の3人が居た。
「入部希望者ですか?ご案内します。希望者の中に、作詞作曲が出来る方はいらっしゃいますか?」
赤い髪の女子生徒がハキハキとした様子で応対する。
「うちの部活は、去年まで先輩が曲を作ってくれてたんですけど...卒業しちゃったんで、作詞作曲が出来る人が来てくれると助かるんですよ~。」
青い髪の女子生徒が、あとに続いた。
「ん...眠い。..え?入部、希望者.......?そういうときは、しゃきっと、しないと.......うーん...無理.......ぐう..........。」
紫色の髪の女子生徒は反応はしたものの睡魔に襲われているようだ。
「はい!え、えーと.......。」
姫梨は緊張しているようだった。
するとすかさず麗音が、
「この茶髪の女の子が作詞作曲できます!...どうかな?鈴ちゃん、いける?」
と言った。
部室に置いてあるキーボードと鈴を交互に見る麗音。
「...うぅ、この姿だと、どうしても自信が持てなくて..........。ごめんなさい.......。」
困った顔をして俯く鈴。
「...それじゃあ、.......これ!開けてみてっ!」
麗音は持っていた手提げ袋を鈴に差し出した。中に入っていたのはキャップとスラックスだった。
「.......これは.......?麗音さん、の.......?」
鈴が麗音に問いかけた。
「キャップは、私のだよっ。ズボンは私の兄が卒業して使わなくなったうちの制服を持ってきたんだ!よかったら、着てみてっ。」
.................................................
キャップとスラックス、また元々身に付けていたブラウスとネクタイでボーイッシュな格好になった鈴、もといリクはストリートライブの時のように、即興演奏で何曲か弾き語りをしてみせた。
「この曲いいかも...愛実ちゃん、ヨゾラ先輩、次のライブで歌う曲、これにしない?」
青い髪の女子生徒は、リクの曲に興味を持ったようだ。
「確かにいいかもしれません。しかし、肝心の部長は聴いていたんでしょうか..........?」
赤い髪の女子生徒の視線の先には、こくりこくりと船を漕ぐ紫色の髪の女子生徒の姿があった。
「あはは、ヨゾラ先輩...部室は寝室じゃないですよ~?」
青い髪の女子生徒が笑いながら言う。
「あの.......つかぬ事をお聞きしますが.......、皆さんの中でどなたか甘いものをお持ちの方は、いらっしゃいませんか.......?」
赤い髪の女子生徒が申し訳なさそうに言った。
「...あ、昨日ちょうど姫梨と一緒に焼いたやつ.......、あ、あった!これ、よければどうぞ。」
紅葉が赤い髪の女子生徒にクッキーを手渡した。
「ありがとうございます。...はい、部長!起きてくださーい。」
口元に来たクッキーをぱくり、と口に含んでもぐもぐと食べる紫色の髪の女子生徒。
「...ん、..........美味しい。クッキーも、演奏も、素敵。」
そう呟く彼女の瞳は、まだ眠たそうに見えた。
「クッキーありがとうございます~。ヨゾラ先輩は甘いものが大好きなんですよ~。」
青い髪の女子生徒が、そう説明した。
「...ああ、自己紹介がまだでしたね、すみません。私は副部長を務めさせていただいている神崎愛実と申します。」
赤い髪の女子生徒が言う。
「私は、霧島水葵っていいます~。よろしくお願いします~。」
おっとりとした口調で、青い髪の女子生徒が続く。
「部長の、星野ヨゾラです.......。よろしく.......ふぁ~.......。」
更にゆっくりとした眠そうな口調で、紫色の髪の女子生徒が続いた。
「...なんか、猫みたいな部長ね.......。」
紅葉がヨゾラを猫に例えた。
「んー、確かに、左右にぴょこんとハネてる毛が猫の耳っぽい.......かも?」
麗音が答える。
「いや、麗音先輩、そこじゃなくて食べ物食べる以外寝てるところが猫っぽいのかと思いますよ.......。」
冷静に突っ込むみどり。
「でも、昨日作ったクッキーが役に立ってよかったね、お姉ちゃん!」
姫梨は嬉しそうな表情を浮かべた。
「まあ...そうね。リクくんと、愛実さん、水葵ちゃんも、よかったら食べる?」
紅葉は皆にもクッキーを勧めた。
.................................................
「改めまして、皆さん。これからよろしくお願い致します。部長がこんな感じなので私が仕切っていますが、部長なだけあって実力はありますよ!」
ハキハキとした口調で愛実が言う。
「今の所、食べるか寝るかしかしてない猫みたいな部長にしか見えないけど.......…。」
と紅葉。その間にもヨゾラはクッキーをぱくり、と口に含んでいた。
「…もぐもぐ.......。眠いけど...食べたい......。そして痩せたい。この3つが同時に叶わないかな~..........。」
どこまでもマイペースな部長である。
「眠いけど食べたい、そして痩せたい、か.......。1曲書けそうなテーマっすね....…。」
リクが呟いた。
「ヨゾラ先輩にぴったりの曲になりそう!あ、そうだ!このまま私たち3人の歌、聴いて貰っちゃう~?」
水葵の提案に、愛実が頷く。
「そうですね。部長を含め私たちの実力を知ってもらうのに良い機会です。」
水葵と愛実のやり取りを聞いていたヨゾラが目を覚ました。
「.....聴いて。私たちの歌。」
.................................................
「「わああ.......!!これが、アイドル.......!」」
一同は歌いながら踊る3人に魅入っていた。
「どうです?私達だって、伊達にアイドルやってる訳じゃないんですよ。」
と愛実。
「なんたって、プロとしてやっていけるレベルを求めてますからね~。」
と水葵。
「「…プ、プロ!?!?!?」」
驚く一同。
「…だから、ただの部活、ただのお遊びなんかじゃない。作詞作曲、編曲まで自分たちでやる必要がある。今まで全て自分たちでこなしてきたアイドルは、数える程しかいないから。」
と、ヨゾラが付け加えた。
「プロ.......!僕も、プロ、目指したいっす.......!」
ヨゾラの言葉に、鈴、もといリクが応える。
「…本気?」
とヨゾラが言う。
「…本気…っす。」
とリク。
「それなら、もっと勉強して。リクが作る曲は悪くない。でも、歌い手としての能力が、まだ…足りない。」
ヨゾラの言葉に、黙り込むリク。
「確かに、私もそれは思います。鈴さん…いや、リクさんは滑舌が課題でしょうか。」
と愛実が付け加える。
「もちろん、他のメンバーさんの歌も聞いてみないことにはわかりませんが、皆さん『プロ』を目指す覚悟があるのなら、私たちについてきてくださいね~。」
おっとりとした口調で、厳しい言葉を水葵が吐いた。
.................................................
「2年生が3人、3年生も3人だから...勧誘するのは1年生がいいよね...今のところ私たち2人しかいないし.......。」
姫梨がみどりに問いかけるように言った。
「そうだね.......。でも、誰がいいんだろう.......?愛実先輩達はスキルが高い人を求めてるかんじだったけど.......。」
みどりが、うーん...と唸った。
「あ、あの...、加藤さんと桜丘さん...!」
その様子を見ていた1人の女子生徒が姫梨とみどりに声をかけた。
.................................................
「...あ、いたいた!寺島さーん!」
姫梨は、黒縁メガネの少女に声をかけた。
「加藤さんと...桜丘さん?私に、何か用でもあるのかしら?」
少女は不思議そうな顔で問いかけに応じる。
「あの...ね、私たち、最近アイドル部に入ったんだけど.......、もしよければ寺島さんもどうかなって思って.......。」
みどりが説明した。
「寺島さん、こないだの体育の授業でバスケやった時すごい動きにキレがあったし、もしかしたらダンスも上手なんじゃないかな...って.......!」
姫梨がそう付け加えた。
「なるほど...アイドル部.......。考えとくわ。」
そう言って、その場を後にした少女。姫梨たちはその少女の後ろ姿をじっと見つめていた。
.................................................
放課後、2人は姫梨の部屋で話をしていた。
「寺島さん、歌もダンスも上手いなんてびっくりだよね...!顔もすごく可愛いし、アイドルにならないなんてもったいないよ...!」
アイドルに関することになると、すぐに熱くなる姫梨。
「あはは...姫梨ちゃんはほんとにアイドル大好きなんだね。それにしても、あれだけ可愛くて歌もダンスも上手だったらファンがたくさん付きそうだなあ.......ん...?」
みどりは、何かに気づいたようにテレビを見つめる。
「みどりちゃん...?あ、MIYUちゃんを観てるんだね。」
テレビには、今活躍中のアーティスト、MIYUが映っていた。
「この子、MIYUちゃんって言うんだ。私テレビっ子じゃないから知らなかったけど、なんかどこかで見たことあるような.......?」
みどりが首を傾げる。
「そういえば、誰かに雰囲気が似てるかも.......?」
姫梨もそう呟き、2人は顔を見合わせる。
「「..........寺島、さん!?」」
.................................................
翌日、2人は少女に聞いてみた。すると──────
「あぁ、よく聞かれるのよね。MIYUはね、私の双子の姉なの。いつも双子ってだけで間違えられて大変なのよね..........。」
はぁ、とため息を漏らす少女。
「双子...道理でそっくりなわけだね...。ところで、寺島さんって下の名前、ゆみちゃんっていうんでしょ?中学時代の同級生の子が言ってたから...!漢字はどんな字を書くの?」
姫梨が問いかけた。
「夢に海で夢海(ゆみ)よ。キラキラネームよね。響き自体は嫌いじゃないんだけどね...。」
と夢海が言い終えたところで、みどりが姫梨の方をじっと見つめた。
「...え?ど、どうしたの?みどりちゃん。私何かおかしいかな.......?」
あたふたとする姫梨。
「姫に梨と書いて姫梨(ひめり)、だなんて、あなたも充分キラキラネームじゃない?そういうことよ。」
姫梨に夢海がそう説明した。
「...ひとまず、夢海ちゃん。今日の一度部室に見学に来る、ってことで...どうかな?」
みどりが夢海に、アイドル部の部室に見学に来たらどうかと言った。
「...そうね。一応行ってみるわ。(でも、アイドル部に入ったら、私は..........。)」
夢海は1人物憂げな表情を浮かべていた。
.................................................
「はい、OKですー!いやー、ワンテイクで最高の歌が録れちゃう辺り、やっぱりMIYUちゃんはアーティストとしての才能があるねー!」
響き渡るスタッフの声。
「あはは、とんでもないです。ありがとうございます。」
ぺこり、と頭を下げるMIYU。
しばらくスタッフと話した後にMIYUは、
「それでは、失礼します。お疲れさまでした!」
と言って部屋を出た。
部屋を出る直前、
「次も期待してるよー!!」
という、スタッフの声が聞こえた。
「…次も、か.......。」
MIYUは、一人ぽつりと呟いた。
.................................................
翌朝、夢海が登校するなり、先に登校していた姫梨が、
「寺島さんっ!おはよう~!」
と、挨拶をした。
「加藤さん、それに、桜丘さん。おはよう。」
と夢海が続けて挨拶をする。
「…おはようございます。ほんと、キラキラしてる.......か、可愛いですよねっ!寺島さんって.......!」
みどりは夢海に見とれていた。
「私も寺島さんはすごく可愛いと思う!スタイルもいいし!あ、下の名前...夢海ちゃんって呼んでもいいかな.......?」
姫梨はどうにかして夢海との距離を縮めたいようだった。
「わかった。そしたら、私も…姫梨とみどりって呼んでもいいかしら?」
と夢海は答えた。
「「あ、うん!(あっ、はい!)」」
2人がほぼ同時に答える。
「それで、アイドル部に誘ってくれた件なんだけど...........。」
夢海が言葉に詰まった。
「あ、もしかして興味持ってくれたのかな?どう?今日、見学だけでも!」
と姫梨が言う。
「私も見学に来てくれたら嬉しいけど…突然だし、夢海ちゃんは大丈夫なのかな.......?」
心配そうなみどり。
「…いいわよ。見学行くついでに、少し歌おうかしら。」
そう答える夢海の仮面のような顔の裏には(「歌い分けくらい...私にならできる。」という心の声が響いていた。)
.................................................
Comment
No Comments Yet.