あやかし戦火 第壱話 『鬼の噺』
ゆきの
あやかし戦火 第壱話 『鬼の噺』
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あやかし戦火 第壱話
~鬼の噺~
ここは中央の地から北東、鬼の一族が支配する鬼門の地。
ぬらりひょんの一族が絶え九十九神から文が届いて三日が経った頃、鬼の長である弥月は一人執務室で頭を悩ませていた。
「はぁ.....どうするべきか......」
文が届いて直ぐに上官達を集めこの文を信じ、一族のものを向かわせるかどうか会議を開いたが、この文を信じ中央の地へ向かわせようと発言する者、怪しい文など相手にするべきではないと言う者の意見が真っ向から二つに割れどちらも譲らずに、最終的に長たる己の判断を仰いできた。
鬼の一族は皆好戦的でこれまで他のあやかし達を強大な力で征服して来たが今回だけは、ほいほいと簡単に出来るものでもない。
何故ならばおそらく中央の地に呼ばれたのは鬼の他に天狗、化猫、妖狐、雪女の一族だろう。
鬼を含めて五大勢力と言われるほどだ。
馬鹿正直に信じて己が中央の地に向かって鬼門の地が他に攻め込まれるなどというヘマはしたくない。
ここまで考えた弥月だがついに考えることを放棄した。
おもむろに手を前に翳すとそこに手のひら大の火が灯る。
するとどこからか風が吹き、火はゴゥッと音を立てて天井に届くまでの炎へと成長した。
燃え盛る炎の中に人影がひとつ現れ、人影は炎の中を歩みながらだんだん弥月に近づいて来る。
その者の表情がはっきり分かるほどに近づくと炎はいつの間にか消え去っており辺りに少し塵が舞っているだけだった。
その人物に向かって弥月は豪快に笑いながら語りかける。
「急に呼び出して悪いな!なるせ!」
なるせと呼ばれた女性は憮然とした表情を隠す事無く弥月を睨みつけている。
「部下に稽古をつけている最中に呼び出されたかと思えば.......一体なんの御用ですか」
せっかくいい所だったのに.......となるせがむくれていると弥月は悪い悪いと笑いながら九十九神からの文をなるせに差し出した。
「これに関してお前に頼みたいことがあってな。丁度いい機会だ、今お前のところで育てている奴らをこれに行かせてみないか?」
なるせは文を受け取りまじまじと見る。
「へぇ、中央の地での試合ですか。勝てば鬼があやかし達の長になれる.......と。そんな重要な試合に弥月様ではなく私達が?」
「あぁ、万が一にこれが罠だったとして、他のあやかしにここが攻め込まれた場合に俺がいた方がいいだろう。それに鬼の特攻隊隊長が直々に育てた奴らだ、簡単に負けるはずが無いだろ?」
弥月が悪そうな顔でそう言うとなるせは目を細め唇の端を上げる。
長にここまで言われたら応えるしかあるまい。
なるせは両手の拳を突き合わせ片膝をつく。
「えぇ、長より賜りしこの任務。最高の面子で最高の結果をご覧に入れましょう」
そう言ったなるせの足元から炎が上がり彼女の体を包み込む。
大きな炎に一瞬目が眩むと彼女の姿は炎と共に掻き消えていた。
その姿を見つめていた弥月はなるせの気配が完全に消えたのを確認すると一人ほくそ笑む。
なるせは気づいていないのだ。
ただ弥月が脳筋で面倒くさい事を自分に丸投げしただけだということを......
──────────────
特攻隊訓練場にて
弥月の特命を受けたなるせが先程まで居た訓練場に戻るとほかの者が打ち合っている中、いち早く気づいた悪魔が駆け寄ってきた。
「なるせ姐さん!!おかえりなさい!弥月様の御用はなんだったんですか?」
悪魔に続いて燐天峙、うける、虫の声などのほかの隊員達も打ち合いを止め口々におかえりなさいなどを言いながら近寄ってくる。
「皆ただいま。丁度いいや、そのままで良いから聞いてね。」
なるせは先程の弥月とのやり取り、そして命を受けたことなどを話すと訓練用の模造刀を取り出しながら光が消えた目でニッコリと笑う。
「それじゃあ、今から出場する隊員を決めるから1人ずつ私にかかってこい。」
隊員達は揃って「はい!」と返事をしながらなるせに斬りかかって行った.......
全員の審査が終わったころ、なるせは近くに転がった屍達を眺めながらよし、と呟き声を張り上げる。
「中央の地に行く隊員を発表するよ!悪魔、虫の声、うける、燐天峙の四人だ!
選ばれなかった隊員達も私達が不在の間、鬼門の地を任せる!必ずや我らが鬼に勝利を持ち帰ってこよう!」
なるせがそう言うと倒れ込んでいた隊員達も起き上がり「おおぉ!」と大きな咆哮のような雄叫びを上げた。
修練場にて未だに興奮冷めやらぬ隊員達が騒いでいる中、先程名を呼ばれた四人はなるせの元に集まっていた。
「いやぁーまさか私が勝ち残れるなんて思いもしませんでしたよ」
今日は運が良かったんですかねぇと悪魔が頬を掻きながらそう言った。
そんな悪魔にうける、燐天峙、虫の声が揃って答える。
「精鋭揃いの特攻部隊で勝ち残れたんだから実力ですよ」
「そうだよー!同期のヤツらの悔しそうな顔みたでしょ?それは悪魔ちゃんが成長して強くなったからだよ!」
「ずっと頑張ってたしねぇ。」
「うぇぇぇん!姐さん方ぁぁぁ!」
そんな四人をなるせは微笑ましそうに見ていたが不意に表情を引き締める。
「この戦いは五大勢力が頂点を決める言うならば最終決戦だ。絶対に私達は負ける訳にはいかないよ。」
なるせがそう言うと四人は背筋を伸ばし己の拳を突き合わせる。
「「「「はい!我らが鬼に必ずや勝利を!」」」」
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