episode1.0ー【白い髪の女】
零の真偽
episode1.0ー【白い髪の女】
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「…ア、」
2人の歌、声が彼女に刺さる。比喩ではない。文字通り、【刺さっている】。
「ッ、ひ…ッ!」
思わず英国紳士が声をあげる。次いで、ポプカが小さく息を飲んだ。
振動だとか、ただ倒れただけだとか、そんな生ぬるいものではなかった。
首筋から始まり、耳元、胸部を大きく、何かに刺されたような傷が彼女に貼り付いた。
「…これは…」
「ちょっ…と…やりすぎたんじゃ…」
冷や汗が頬を伝う。歌が武器になるとは聞いていた。聞いていたし、ぼんやりとだが理解していたつもりだった。
「お、ねえさ…」
「…理解はしていても…いざ見ると…」
「…ッあ、待って、何か、」
英国紳士が口を開くのと同時。
白い髪の女の傷口から何かが漏れ出す。血ではない。バサバサとした音を立てて床に落ちたのは、フィルムのようなもの。
とめどなくフィルムが流れる。溢れる、といった表現が正しいのだろうか。彼女は一瞬苦しそうな表情を浮かべ、キッと貴方達を睨んだように思った。
「ジジ…ッ…!」
「血じゃない…人間じゃ、なかったんだ…」
「…零軍は、人間じゃない…」
2人の視線は彼女に釘付けになる。傷口から漏れだしたフィルムは静かに、止まる。
その瞬間、彼女の姿は雪となって消えた。
「…えっ…!?」
「雪…?」
雪はフィルムに降り、やがてそこには静寂が訪れる。
寒気が嘘のように消え、彼女の気配も何もかも、そこにいた証拠であるフィルムや雪がなければ最初から【白い髪の女】なんていなかったかのように。
「…終わった…?」
「…終わった…と、思います…何も無い…気配も何も…全部消えた…」
「フィルムと雪…って、…なんだか遺灰みたいだ」
「…遺灰…」
安堵感か、不安感か。ほぼ同時に息を吐く2人の端末が鳴る。ビクリと肩を震わせ、ポプカが端末をスピーカーモードにする。英国紳士の端末の音が鳴り止んだ。
「…はい、ポプカです」
「はーい…ひでまるもいるよ~…」
『無事だったんだね。さっき監視カメラの復旧が終わって…』
「あの方なら、倒しました」
『見てたよ』
見ていたなら応戦に来ればいいのに。そんな文句が喉まで出かかった。
「じゃあ、フィルムが出て…彼女が、雪になったってのも?」
『見てた。そう、それについて少し調べたいことがある。フィルムを持ってきて欲しいんだ』
「私たちはあなたの居場所を知らない」
ちらり、とフィルムの山、それに積もる雪を見る。さっきまであれが、人の形をしていた。立っていた。言葉は喋れなくても、自分と同じ姿だった。
なんだか生々しくて、直ぐに目を離す。
『…意地悪言わないでよポプカさん』
「…本当の事です」
『まあ、研究室に置いておいて貰えれば取りに行くよ。今は復旧で忙しいし』
「ね、ねぇ●●さん。雪は…えっと、どうすればいい?」
フィルムが重要とされるのなら、元々彼女であったこの雪も重要なのかもしれない。そう思って問うたが、スピーカーからは興味なさげに へぇ、とつぶやく声だけが聞こえた。
『雪…?…それが本当に雪なら採取は難しいだろうから、そのままでいいよ。監視カメラの映像もあるし』
「…じゃあ、僕が…持っていくよ。フィルム…」
戦いの余韻なのか。指先の小さな震えが止まらない。生々しいからと目を逸らしたフィルムを掴もうとしても直ぐに滑り落ちる。
「…ころ…したの…?」
ぽつりと口をついて出た言葉に、自分でも驚いて手で押さえる。歌で【殺した】、歌で【刺した】。物理的に、殺してしまったのと一緒なのではないかと。
『……それは』
「あっ…い、いやなんでもない」
『そう…思うのも無理はないね。…ポプカさんも今日は休んで』
「…いえ。私が届けます」
「い、いいよ。僕、行けるから…」
「では、一緒に行きましょう」
殺めたのでは、ないか。
冷たいフィルムを抱え、そんな考えがいつまでたっても消えなかった。
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おめでとうございます、イベントクリアです。
不定期の影響は受けませんでしたが、英国紳士様、ポプカ様は
【女が目の前で重傷を負った】
【殺めたのではないかという不安感】
上記の精神状態への負荷により、次回サウンド作成時はエフェクト使用が不可能となりました。
把握していただけると幸いです。
日付が変わった0時、【白い髪の女がいる】コミュニティを削除させていただきます。
イベント参加ありがとうございました。
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●●のTwitterが解放されました。気が向いたら覗いてあげてください。
https://nana-music.com/communities/895035/
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今回提出されたサウンドです!
雨とペトラ/英国紳士様 ポプカ様
https://nana-music.com/sounds/04d0bc6c/
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