§夢幻ノ箱庭§ 第十四話~庭に招かれた者達・後編~
§幻想舞踏会§
§夢幻ノ箱庭§ 第十四話~庭に招かれた者達・後編~
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§夢幻ノ箱庭§
第十四話~庭に招かれた者達・後編~
光姫の背後で手を叩く音が響く。
自然と全員の視線がレイカへと注がれた。
「…姫様とボブくんの関係は一度置いておきましょう。
姫様……私達、貴女に聞きたいことがたくさんあるの。」
握るそうまの手をゆっくり放すと、光姫は笑顔を保ったまた振り返る。
「…あら?
何でしょう、レイカさん?」
レイカは指示を忠実に守り後方に控えている歌々達三姉妹を一瞥すると、意を決したかのように頷いて言葉を紡ぐ。
「貴女、朱さんを襲った上に加護を奪ったというのは本当?」
一瞬にして空気が張りつめたものとなる。
核心を尽く質問に隠された懇願の視線と
先程まで和やかな空気を作っていた中心人物からの真意を汲み取れない笑顔の視線がぶつかる。
「………。
その質問にはお答えしかねます。」
「なっ…!」
光姫の返答にまりーが驚きの声を漏らしてしまう。
意にも介さず光姫は言葉を続ける。
「ただ…そうですね。
加護をあの世界からこの次元へと持ち込んだのは間違いなく私、光姫です。
ですが、奪ったとは心外ですね…。
あの状態の加護は[白ノ加護以外は誰のモノでも無い]のですから。
結果として
【朱さんを傷つけた】事は認めましょう。」
道の先にある島々を眺めながらぼやく様に答える。
環の手がピクリと動いた。
「…朱さんを襲った、というのは否定しないのね。
加護を持ち込んだ、と言ったわね。
あれだけ尽力して、七ノ国に降り立ったものだというのに…何のためにそんなことを?」
「それも今は回答しかねます。
が、理由だけは伝えておきます。
他に方法が無いと判断したからです。」
光姫はゆっくりと輪の中心から歩み出ると、島々を指さす。
「ご覧になってください。
向こうに見える五つの島。
あの島にはそれぞれ加護があるはずです。
この世界に来てから
加護は箱庭となったこの次元で独自の構造物…『島』を作り出しました。
もちろん、
光姫の中にあった加護も
今はこの世界のどこかにあります。」
まりーの心臓がドキリと跳ね上がる。
脳裏に蘇るのはいつの日か確かに感じた我が主に忍び寄っていた死の影だった。
レイカが続けて質問をする。
「加護が島を…?
つまりあなたは今、加護を宿してはいないのね?
それから……私の作った鏡の装飾は?」
「ふふ、質問ばかりですねw
…故意的に置いてきました。
すぐにあなた方に来られては不味かったので。
あの装飾を私が持っていれば、貴女達はすぐに私の居場所を特定させて、来ていたでしょう。
アレは、[神官である私]の為に作られた装飾であると同時に、枷ですもんね?レイカさん。」
「………。
そうね間違いないわ。」
(枷…?)
含みのある単語のひとつひとつに、他の隊士は光姫とレイカにしか解らない何かがある事を感じる。
「加護があの建造物…いえ、島を作る間この次元は歪み過ぎてました。
そんな渦中に来られては私でも全員を守れません。
私の目的は
『皆さんに安全な状態で来てもらうこと』
でしたから。」
光姫は自身の真意を隠すように言葉を選び、
レイカは歌々達を刺激しないように言葉を選らぶ。
「次元が歪む……。貴女から聞いていた[無色ノ間]とあまりにも様相が違うのはそういうことなのかしら。
いいえ、夢幻ノ箱庭と言ったわね。
わたしたちはどうしてここへ招かれたの?」
「聡明なレイカさんならもう気づいているかと思いますが…
もちろん、皆さんに加護を探し出してもらう為です。」
光姫は自身の両手を見つめる。
「あの島々が作られたことで
加護は完全に私の手から離れてしまった。
加護はその身に宿した主でないと声が届かない…。」
「待って!!」
突然声がする。
声の主は環だった。
「私は朱の無実を晴らすために来たんです姫様…。
正直加護はどうでもいい…
姫様に元の世界に戻って頂いて、真実を公にしてくれるだけでいいと思っています。
朱が目を覚ます前に…!
そして、光姫様が本当に朱を傷つけたのなら…私は許さない…。」
言葉と共に拳へ力が入り指先が白く滲む。
殺気を感じたまりーは光姫の前に飛び出し、環をジっと見据える。
背後から光姫がまりーに下がるよう命じながら、環を見つめた。
「…今、元の世界に戻っても、朱さんは目を覚ましませんよ。」
「な、なぜ…?」
「…そして真実を語るのにも、
私には語るに足る証拠を持っていないので、確固たる物証を確保している方には詭弁ととられてしまうでしょう。
…うふふ、私が朱さんを…?
そうだと思うなら
尚更、加護を探し出さないと
朱さんは…助かりませんよ。」
レイカの背後にいる歌々と視線がぶつかる。
光姫は、歌々との視線を逸らし、含みのある笑顔で歌々の隣りにいるぽすとを見つめた。
「…ここに来たからには、とる行動はひとつしかないのです。
朱さんを助けたければ…
真実を知りたければ、
そして、光姫を捕まえたければ
[加護をもう一度人間のモノにしなければならない]んです。」
光姫の声に呼応するかのように、島々の光が怪しく揺れた気がした。
「加護達へ示さなければならない。
加護を持つにふさわしい事を。
今の神官では無理だったのですよ。
その可能性が残されているのはここにいる皆さんだけ…
【夢か幻のように消えかけた加護を箱に閉じ込めたことで延命している】
この世界こそ
加護達を守る最後の空間。
私は私の目的の為に加護を持ち込んだ。
その代償は払います。
ですが今は、加護を見つける為に、共に行きましょう。」
光姫の身体から無数の光球が溢れ出し、島へと続く道の上に規則正しく並んでいく。
まるで外灯のように道を照らし出した。
そして島とは反対の方へ伸びている道を指さす。
「ほら、よく見てください。
道は少しずつ無くなっていますよ。
これ以上ここにいるのは危険です。
先へ進まなければ…」
確かに、隊士達がいる道は奥から次第に薄く、そして見えなくなっているのが解る。
そのスピードは走る必要は無いが、
その場にいつまでもいる訳にはいけないと判断できる程には、進行していた。
環は握りしめた拳をおろし、視線を落として黙る。
レイカは光姫をじっと視線を逸らす事無く、見つめていた。
(…わたしは、歴史や規律に囚われて疑うことしかできなかったあの時のわたしとは違うわ。)
「姫様……いえ、未久さん。
わたしは情報や事実がなんであろうと貴女を信じているわ。
だから加護をすべて見つけてみせたら……全て話してちょうだいね。」
未久という単語に光姫の笑顔が消えた。
しかしそれも一瞬の間、すぐに元の笑顔へ戻る。
「…行きましょうか。
この夢幻を終わらせる為に。」
しかし、光姫は前に一歩も動かない。
「…姫様?どうかなさったんですか?」
「島にたどり着く前に、宝石へ魔力を供給する必要があるみたいですね…」
隊士達の目の前には、いつの間にか道を塞ぐように大きな扉が二つ現れていた。
それは誰もが見た事ある扉…
祭典の試合を繰り広げる次元、闘技場ノ間へと続く扉だった。
………つづく。
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