§夢幻ノ箱庭§ 第十二話~庭に招かれた者達・前編~
§幻想舞踏会§
§夢幻ノ箱庭§ 第十二話~庭に招かれた者達・前編~
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§夢幻ノ箱庭§
第十ニ話~庭に招かれた者達・前編~
隊士達が到着するのと同時刻、
レイカ達の降り立った道から最も遠い島の一端。
ボーンチャイナを連想させるなめらかで白い陶器の様な床に、ひとつの足音が響いていた。
その足音がピタリと止むと長髪をなびかせ、白ノ国の正装と装飾品を身に纏う人物は顔を上げた。
見上げた先では、青々とした蔦の奥から青い花びらが舞い散り、淡い光に影を作る。
青い薔薇を満開に咲かせた蔦のさらに奥に、一人の人物が見え隠れする。
その人物へ視線を向けると、静かな空間に柔らかな声だけが音を奏でた。
「…ごきげんよう。
お元気ですか? 」
『……。』
「…やっと彼等が、来ましたよ。」
『……。』
この世界の端に到着したレイカ達のの声を、魔力感知で聞きつける。
「…っと、私も行かなくては。」
『……。』
「…必ず、助けますからね。」
その笑顔に流れる雫の意味を、まだ誰も知らない。
~~~
「…どういうことなの、これは……。
……みんな集まって頂戴。」
レイカの声が動揺を隠せずにいる。
無理もない、誰もがその世界の光景に目を疑っていた。
[何も無い]筈の無色ノ間で自分達が降り立った、どこか見覚えのある色合いの透き通ったガラスの様な道。
その道は淡い光を発しながら七色を揺らめかせていた。
自然と全員は道を目で追う。
その先には、この位置だからこそ把握出来たであろう巨大な建造物が5つ
確かに存在していた。
いや、建造物と言うにはあまりにも原始的かつ既視感を感じるその造形。
全ての隊士が、過去に現れたソレを思い出し、それらを島と認識した。
「レイカちゃん…これは一体…?
光姫から言われていた無色ノ間とあまりにも違うんだけど…」
「レイカさん、ここは...本当に無色の間ですか?」
ていなんやそうまも目の前の光景に理解が追いつかない。
「そうよ、その筈…
転送術式は成功しているはずなの。
わたしの感覚では転送魔法は成功して、いまは無色ノ間に辿り着けているはず……なの。
あまりにも様子が、話に聞いていたのと違いすぎるわ。
…隊のみなさんに怪我や異常はないかしら。」
「っ、赤炎鳳凰隊!無事か!!」
レイカの一声で各隊長が隊士達の無事を確認する。
全員が五体満足でその世界に敷かれている七色ノ道にいた。
その中で冷静を保っているのは、
保安組織三姉妹と、日ごろからトンデモ魔術に振りまわされている黄ノ魔法クラブ会員達だけだ。
まりーはその世界の光景よりも、その世界に人影が無いか辺りを見回し、
ボブも同じく周囲に目を凝らし、ブツブツと歩き回りながら髪を掻く。
各々が散開しそうな状況に、レイカは声を上げた。
「ひとまず皆、怪我はないわね?…落ち着いてわたしの話を聴いてちょうだい。
わたしは、罪状の通りあの姫様が私利私欲で加護を奪ったなんて考えていないわ。
だけれど、国のトップである神官達を納得させられるだけの材料がないことも確かなの。
…わたしはここへそれを探しに来た。
聞いていたような場所とはだいぶ違うようだけれど…
…わたしのするべきこと、したいことは変わらないわ。」
静かに、しかし真っ直ぐと皆を見て話すレイカの手には、
光姫がレイカへと委託して作らせた鏡の装飾品が握られていた。
鏡へと視線を落とす。
「…みんながどんな気持ちでここへ来たのかはわからないわ。
だけど、姫様と朱さんがどこへ行ったのか、何を為すつもりだったのか、そしてわたしたちが何をするべきか…
…これから知ることで各々判断してくれれば、それで構わないと思っているわ。
ううん、それで皆に判断をしてほしいの。
今までの姫様を知るわたし達。
それから、先入観無しで見ることができる新しい隊士たち。
どちらか一方だけではきっとだめなんだわ。
わたし達皆で……真実を探しましょう。」
レイカの演説で、歌々は表情に影を落とした。
静まり返った空間で、まりーの言葉が紡がれる。
「…私は光姫様に仕える者。
姫様を信じています。
それだけは、変わりません。」
ていなんもそれに続いた。
「僕も、自分より他人を優先する光姫が私利私欲で加護を奪うなんて考えられないね。
何があったのか、少しでもいいから相談してくれればよかったのに。
…知りたい。何があったのか。
何を1人で背負っているのかを。」
隊長達の言葉に、ボブが大きな深呼吸をした。
(俺も落ち着かなければ…。そうだ、今は信じるんだ。
未久さんを…仲間を…。)
「皆様に共有するべき情報がございます。
少しお聞き願いたい。」
「…なにか知っているの?」
レイカが尋ねる。
「ええ。
実は昨晩、未k…いえ、ここでは光姫でいきましょう。
光姫様が、俺の部屋から青い薔薇を持ち出したようなのです。
気づかなかったことは謝罪致します。
気づいていれば…あるいは止められたかもしれないのに…」
「昨晩……?姫様が消息を絶つ直前に、ということかしら?」
「ええ、おそらく。」
ボブは遠くに見える島々に目を細めながら、確信を帯びた声で言葉を続けた。
「今、この世界のどこかに、その青い薔薇の気配があります。
俺が育てた物です。間違いありません。
髪飾りの薔薇も同じ薔薇から作り姫様に身に着けて頂いているので、間違えるはずがないのです。
つまり…
この世界のどこかに、光姫様はいます。」
ボブの発言は、光姫がこの世界にいるという確信を皆に伝える為のものだった。
…しかし、
その情報以上の事に気づいてしまった各隊士は、ボブから数歩後ずさる。
ていなんのひきつった声が的確にツッコミを入れる。
「お前…自分の女にGPSでも付けてんのかよ…
さすがにちょっと…」
「ボブ…うわぁ…」
「ボブ…それは無いわ…」
「…GPS…」
「この束縛男子ぃ…」
まりー、そうま、ハンペン、も続けて声を漏らし、はち蜜雨にいたっては完全に恐怖の色を見せていた。
まさにドン引きである。
「…ん?
なぜ引かれているのでしょう…?」
ボブはまったく悪気が無いようで、周囲の反応を理解できていない。
レイカが呆れるように溜息をついた。
「…言い方の問題というものがあってよ。」
「…?」
「そうだわ、貴方にこの手のことで何を言っても無駄だったわね。
変わり無いようで安心したわ。」
「…???」
ていなんはまりーをボブから遠ざけるように、しながらこの世界に来て初めて笑みをこぼした。
「お前、ほんとに何も変わんねぇな。
なんか、諦めてこっちもスッキリしたわ…
(かなり引いたけど)」
「私も、相変わらずのボブで…なんか安心したかも。
(超引くけど)」
「ていなん様もまりーさんも最後の一言聞こえないのですが…。
まぁ、とにかく、光姫様はこの世界にいるのです。」
『あらあら
皆さんお揃いで…
ごきげんよう
ようこそ、無色ノ間…いえ、
【夢幻ノ箱庭】へ』
そんなやりとりをしているボブ達の元へ現れた人物は、
誰もが予想外であり
そして、誰もが探していた人物であった。
「「「…ひ、姫様…!?」」」
…つづく。
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