どうしようもないことは美し
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どうしようもないことは美し
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私は木になりたい。
そして春になると幼き頃に見た彼の娘の頰、可愛気というよりも自然の綻びと呼ぶべき色をした花、凛々と咲かせる木と触れ合いたい。
しかし、地に根を張り、自ら動けずに、そこに永劫あるべく私はあの美しい木には触れられないのだ。
きっと私はあの木と触れ合い、どこかへ種子を飛ばす他ないのに。
私は清らかな水になりたい。地中からどこからともなく湧き出でる。私たちのぶつかりに、自然の産声と呼ぶべきせせらぎに生命は宿ったのだろう。
群れをなし、上流へ逆らう魚のように、私は其処に還りたい。空気の重みに耐えきれぬ私はプラスチックや汚泥を引き連れ、このまま降るしかないのだ。
きっと産声を上げていた私は美しかったに違いないのに。
この先海の底へ沈むのか、旅を続けるのか、それすらもわからないが。
私は雲になりたい。広大無辺な胸中から悲しみを集めるのだ。どこへ行こうともなく、風にあしらわれ、時に怒りや虚しさと交錯し、行き先のない悲しみに行き先を、地中の清らかな水へと贈るのだ。
そしていつか聞こえる産声は、木々のざわめきと共鳴し、何事もなかったかのように、私はそこで眠りに落ちるのだ。
またここからやり直しか。
どうしようもないことはどうしようもないままが美しいのだ。
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