§夢幻ノ箱庭§ 第四話~黄ノ都市~
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§夢幻ノ箱庭§ 第四話~黄ノ都市~
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§夢幻ノ箱庭§
第四話~黄ノ都市~
各都市が強盗グループの騒動で賑わっている中、その土地へと強盗犯が逃げなかったのには理由がある。
鉱脈が豊かで鍛冶の栄えているその土地は現在雨期を迎えており、雷が激しく鳴り響いており、落雷の危険性が極めて
高かった為である。
そうでなくとも、強盗団達は最終目的地があった為反対方向であるその土地には寄らなかっただろう。
そこはかつて黄ノ国と呼ばれていた都市。
国が統一され、与えられた名は第二都市・麒麟街。
通称<黄ノ都市>と呼ばれた。
【歴史と芸能】を統括している黄ノ都市では、各都市の伝統技術や歴史書を後世に伝えるべく様々な技術を習得した職
人が多く住んでいる。
そんな土地で異色のオーラを発している建物がひとつ、都市はずれの丘の上にあった。
ドーム型のその施設からは女性の高笑いが良く聞こえてきており、頻繁に不審者(変態)速報が流れる事もあった為
一般市民は近寄らないエリアにもなっていた。
~~~
「いってきまーす!!」
雨にも拘らず傘も差さずにその建物から飛び出してきたのは、魔法クラブ会長の雪季だった。
「ピ!?ゆっきーどこ行くの!?」
ピカ○ュウ…ではなく、珀斗が室内から声をかける。
「今日もかんねえを勧誘するべく強襲してくる!
あわよくば性的な意味で襲ってくる!」
「………ピ…。」
唖然と見送るピカチ…珀斗の後ろではそそくさと夜蝶も外出の支度を進めていた。
「はくくん、私もちょっと出てくるね!
なんでも強盗団が各都市を逃げ回ってるみたいだし、なんか面白いスクープ撮れそうだから!
ついでに写真提供者として今日発売の姫様特集雑誌の完成度を確認する為に本屋さんにも行って、
そのまま爽くんにも会ってくる!」
「夜蝶ちゃん…副業が本業かと錯覚するくらい板についてきてる…ピ…」
夜蝶は防水カメラを首から下げると、笑顔で外へと飛び出していった。
ピカチュ○はただただ見送って、今日も留守番をしなければいけないことを悟った。
~~~
雪季は通い慣れた鍛冶屋へ辿りつくと扉をためらいもなく開け放つ。
「かんねー!!!」
笑顔で飛び込んできた雪季を迎え撃ったのは、環の投げた金槌だった。
工房内に鐘のような音が響く。
顔面で金槌を受け止めた雪季はかすり傷ひとつついていなかった。
「ちょっとぐるりん!?イキナリ何するの!?
ビックリするでしょう!?
私じゃなかったら怪我してるよ!?」
「えー無傷なの?怪我してよ頼むから。」
呆れ顔で真っ赤に燃える鉄を叩きながら環が軽くあしらう。
その様子を驚いた顔で見ている人物が二人いた。
「で、ゆっきーは何の用?」
「かんねーを探しに…ってその方々は?」
「キャンなら今仕入に出てるよ。
ゆっきーは初対面だっけ?
こっちの白い子はうちの新人の兎汰。
で、こっちの黒い子は朱のかわりに宰相になったりんだよ。」
「あーそっか、隊長…じゃないや、もう神官になったんだっけ?」
そう、黄ノ都市から選出された神官は元国王ではなく
元宰相の朱だった。
かわりに黄晶麒麟隊として活動していた期間中に代理で宰相を務めていたりんは、そのまま正式に宰相となったのであ
る。
「私達の隊長が今や一国の要だよ。誇らしいねぇ。」
環が嬉しそうにはにかみながら鉄を打つ。
雪季はキャンがいないことに残念がりつつも、兎汰の観察をしてニマリと笑う。
「兎汰ちゃん…あなたも良い素質持ってそうね…!
どうかしら?こんな工房辞めて魔法クラブに入会するっていうのは…」
両手の指をワキワキと艶かしく動かしながら兎汰へと近づく。
すると今度はバールのようなものが飛んできて、雪季の側頭部に刺さった。
「うちの新入りに手を出すな変態。」
「ちょっとぐるりん!!
だから怪我したらどうすんの!?」
「だからなんで怪我しないの?」
「…環さんこの方が例の?」
兎汰が引き気味に環へと尋ねる。
「そう、例の変態。困ったら首から下を地面に埋めるんだよ?」
「了解です。
考えるより身体動かす方が性に合ってるので解り易くていいですね。」
「ちょっと!?何をの打ち合わせ!?」
一気に騒々しくなった工房内をりんは静かにながめ、他人事のようにお茶をすする。
「個性的なキャラばかりだなあ…。」
「…りんちゃんもそのうちキャラ崩壊[させる]から。」
突然後ろから声がする。
驚いて振り返ると、夜蝶が窓から顔を覗かせていた。
普段のりんがうつっている写真をヒラヒラと見せながらニヤニヤと笑う。
「いや~今後りんちゃんの素のキャラがどんな風にバレていくかが楽しみだなぁ~♪」
「な!?ちょっと!?!?」
「じゃ!私は用事があるから!!」
りんが動くよりも早く夜蝶は窓から飛びのいて走り去っていく。
「…逃げ足の早い…!!!」
そんなやりとりの後ろでは、雪季がさっそく埋められようとしていた。
~~~
一方その頃、ブティック【Reika】から逃げ出した大男は真っ直ぐとある場所へ向かっていた。
「はあ…はあ…。
あとはあそこで[あの情報]を手に入れて…
俺は近隣国へ亡命するだけ…ククク…」
赤ノ都市で盗んだある物をポケットの中で握りしめながら、不敵な笑みを浮かべる。
その視線の先にあるものは、
七色に輝く宝石とその周囲を舞う四色の魔法石に照らされた花の形をした台地だった。
~~~
「…は?何、コイツ強盗犯の一人だったの?」
青ノ都市へ強盗犯の身柄を引き取りにきたジェイドが簡単にそうま達へと説明する。
「盗まれた物を持ってるであろう主犯格はまだ逃げてるみたいだけどね…。」
「なんだなんだ、魔導騎士ともあろう奴が罪人を逃がすだなんて情けないな?」
ボブが嘲笑まじりに煽る。
「君みたいな無自覚天然タラシ能天気野郎には解らないだろうけどね?
敵を○さずに捕まえるのも苦労するんだってば。
あと盗まれた物を壊さないようにしないといけないし。
頭に養分回ってる?肥料撒いてあげようか?」
ジェイドもいつもの調子で煽りかえす。
そんな様子をそうまは笑いながら見ていた。
「あはは、相変わらず仲良しだね~」
「仲良くない!」
「仲良くありません!」
「というか…何が盗まれたんですか?」
夢羽が恐る恐る尋ねる。
「…七色ノ華広場が、まだ空の上にあった頃に各拠点島に展開されていた魔法…
赤ノ国が生み出した<円形防衛魔法>の解析情報ですよ。
何の目的で盗んだかは解らないけど…。」
「ジェイドさーん!!」
難しい顔をしているジェイドの元へと爽が駆けつける。
「今、黒ノ都市から連絡が入りました!
強盗団逃走者の内二名を捕獲、主犯格一名は魔法を展開しその場から逃げた模様。
現地の魔導騎士の報告によると、
主犯格の能力は
放出系の状態異常特化型
<咆哮サイレント>。
未申請の違法改造魔法です。」
「主犯格は取り逃がした…ということか…。」
「ええ…そして…、どうやらその男
<神域>へ向かって逃走したらしいです…。」
「…何?」
そんなやりとりを聞いていたボブは、遠くに見える台地を見つめる。
脳裏をよぎったのは1人の面影だった。
(そんなまさか…いないよな…こんなタイミング良く。
四六時中あの場所にいる訳じゃないし…。)
ふとそうまも自分と同じように台地を見ている事に気が付く。
「そうまも同じ事を考えたのか…?」
「ははは…まあね。
まあ大丈夫だよ。…うん、
四六時中あの場所にいる訳じゃないし…。」
「…そうだよな、大丈夫だ。
いくらあの姫様が不運体質の持ち主でも…ははは。」
二人は顔を見合わせぎこちない笑顔で笑う。
そして互いに黙り込んでしまう。
沈黙を破り最初に口を開いたのはそうまだった。
「ちょっとボブ、散歩にいかない?
ランニング的な感じで。」
「良い案だな。俺も今お前を誘おうと思ってた所だ。」
そう言うと、ボブとそうまは手に持っていた書店の袋をハンペンへと押し付ける。
「ハンペン君これ、僕とボブの部屋に置いておいて☆」
「汚したらシバく。」
「は…?え?先輩方どこへ…!?」
返事を聞く間もなく、二人は駆け足でその場を去って行った。
…第五話へつづく。
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