お見立て
古典落語
お見立て
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聴いていたら、面白くて残したいところばかりで長くなってしまいました(^_^;)今回は枕からあります。また、短いもの改めて作ります!
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江戸時代の話です、まあその頃には幕府公認の遊郭というものがありまして、江戸の今は台東区になりますが吉原という土地に盛えた吉原遊郭という場所がありました。
今で言う歓楽街ですが、戦後の売春禁止法で今はなくなっているはずなのですが、何でも昔の名残が残っているのが日本でして、ただこの吉原遊郭は非常にスケールが大きかった。二階建てで同じような形の建物が建ち並び大見世、中見世、小見世と段々に大きさごとに分かれておりまして、その違いは値段はもちろん部屋の大きさも違う。一つの部屋に百人もの遊女がいる部屋等もありまして寝泊まりまでできたそうですが、そんな吉原遊郭には三千人の遊女がいたそうです。その遊女の中でトップクラスの遊女だけが花魁と呼ばれておりました。遊郭に入ったら10年勤めるか27歳で自由の身となれたそうですが、もう一つ自由の身となれる身請けという方法がありまして、これはお金持ちにお金を出してもらって自由の身となる方法で、花魁であれば身請け金は一億円が必要であったとか、しかし朝10時に起きて昼から客について夕方6時の客引きまでいて、一度寝て起きて深夜2時から朝6時まで働いていたということですから、早く身請けできるということがそこで働く遊女にとってどれほど幸運であったかと思う訳ですが、ただただどうしても生理的に受け付けない人間とは大金を積まれても一緒になりたくはない、それは今も昔も同じであったようで、今回はそんな話をしようと思っております。
遊郭では見立てと言いまして、遊女達がおしろいを塗って、表通りに面した格子の中に並んでお客から選んでもらうのを待つ訳ですが、その姿は灯りのない昔では白い顔の浮き方が幽霊のようでして、まあ幽霊にも恋い焦がれることができるような男が来るのが遊郭な訳ですが。ただどの見世も客の取り合いな訳ですから、ぎゅうという客引きがおりまして、お客さんに声をかける訳です。
「よろしいのをお見立てしますよ」
初めての客はこれで連れていく訳ですが、顔見知りとなればちょっと違う。
「あーぁああー、旦那様、久しぶりでございますね。うちの花魁も会いたがっておりました。どうぞ二階上がっててくださいな」
おぉ、吉瀬川も会いてぇと言っとったが今日は吉瀬川に会いに来たんでよ。
とこんな感じで部屋に案内して、その部屋に花魁を連れて来ると。まあすぐに花魁が来る訳ではありません、人気がありますから、贔屓の客をいくつか回ってくる訳でその間じっと待つ訳です。
「喜瀬川花魁、
喜瀬川花魁どちらでらっしゃいますか?」
なんだい喜助?
「杢兵衛(もくべえ)大尽がお見えになっております。」
杢べえ、、、あぁあぁあ
「ほら、もう花魁はお待ちかねでございますよって言って二階に上がって頂いているんで、お顔だけでも出してやってください」
いやだ、いやだよ
しつこい男でさ、しかも田舎者なんだから
出ないよ
「えぇ嫌だよ、出ないよって、それじゃ困るんでございます
二階に上がって頂いてるんですから」
いやだって言ったらいやだなんだよ
顔を見るだけでじんましんがぞわぞわと出るんだから
いつも命からがら部屋から逃げてくるんだよ
もう命に変えても出ないよ
「出ないと困るんでございます、田舎からお越しなんですから、今日は匂いだけでございますと言えんでしょう」
あぁもう そうしたら 面倒だから こう言っておくれよ
花魁は体調を崩しており病の床に就いております。
ですから、こちらに参ることは出来ませんって謝っておいてくれよ
「いやいや、そう言われてもですよ。こっちは面と向かって言うんですよ。花魁待ってますよと言ってたものが、寝込んでますのでって、こっちも言い大人なんですから、言えんでしょう」
そこをなんとか頼むよ。後生だよ。お礼はするからさ。お願いだよ。
「あぁもう、分かりましたよ。言ってきますよ。
なんでこう通わせておいて薄情なことができるかねぇ、嫌だね、本当に、
だぁ様、だぁ様、ごめんくださいまし。あーぁ、こっちもこっちだよ。こんだけ嫌われてんのになぜわかんねぇだろう」
あぁ喜助か
喜瀬川はまだ来ねぇでねぇか
随分と待たせで
「いつもご贔屓くださりありがとうございます。」
ありがとおぉございますってお前の面を見に来たわけではねぇ
あぁどおした喜瀬川は?
まだ来ねえだかぁ?
「実はあの、だぁ様が楽しんで頂いておりましたので、ついつい言いそびれてしまいまして」
あんだ?なぬを言いそびれただ?
「えぇ・・・実は花魁は風邪をこじらせまして、いま病の床に臥せっております。
ですのでこちらには出ることができないのでございます。」
あんだ?喜瀬川が患ってるだぁ?風邪をこずらせて。
あぁはやぐ言ぇばいいでねぇか
仕方ねぇな、じゃ、けぇーるか。
「お帰りで、お帰りはこちらで」
待て待て待て、いぎなりそんなこと言って、いや、今度ここに来るのも先になる
病の床に臥せってんだったらなぁ、一つ見舞ってやんべか
部屋どこだ?
「えっ、えぇー、だー様、見舞いは結構でございます」
結構ってことあるか夫婦の契りを年の末にもすっと思ってんだ、放ておくことはできね、部屋案内ぶて
「いや、そうそう、そうです。その言いづらいことでございますが、昔から吉原には法が、えぇ花魁が患っている時は、どんなご贔屓なお客様でもお見舞いは遠慮しなければならないと、
これは吉原の法、決まりごとになっておりますのでお見舞いは出来ないのでございます。」
あんだぁ?吉原の法?
初めて聞いたぞ
「私も初めて聞きました」
んだって?
「いえいえ、私も初めてこんなことになったので、申し訳ないと」
仕方ねぇ、けぇーるか。
「お帰りで、へい、お帰りはこちらで」
本当はぇーなそんだけは。そしたらよ、国元から兄様が来たってすっのはどうだ
「えっ、あぁうーん、ええ、それは名案でございますね、っていえいえ、そんなこと偽ったことがわかったら、法ですからね、どんなおとがめがあるか」
ここの主人とはよしみだ、お内所でそれはえぇか聞いてくれ
「うぅ、分かりました。じゃあ、ちょっと行ってきます」
「だから、こんなこと嫌なんだよ、思わぬことがおきる。本当にどうすんだぃ。
花魁、行ってきました。」
どうだい?帰ったろう?
「帰りゃしませんよ。
花魁が病の床に臥せっておりますって言ったら、だったら見舞いに行くってんだよ。あんたを」
そういう人なんだよ。気味が悪いねぇ
すぐに帰ればいいじゃないか
嫌だよお見舞いなんかされたら
本当だったら余計悪くなんだろう。
分からないもんかね。
「いえ、そこでね、実は吉原には法がございまして花魁が患っている時は
どんなに贔屓のお客様でもお見舞いは出来ないのでございますと言ったんです」
上手いこと言ったじゃない
「これで帰ると思ったんです。
さる敵も敵ですよ。じゃあ、身内、兄様ってことにするならよかろうと、良いかどうか尋ねて来いと、どうします」
嫌な奴だね。本当に。うぅーん、じゃあもう死んじゃったと、そう言いなよ
「あんた、どうしてそんな乱暴なこと」
乱暴だよ。そんぐらい言わないと諦めないだろう
「あんた、そんなこと言っても考えてください、花魁待ってますと言ってたのを病で床におりますと言って、実は死んでましたって、そんなばかばかしいこと、、。」
いいんだよ、心配しなくても、
初めに言わないといけなかっのでございますが、花魁がお亡くなりになったことをお伝えするのがまことにお気の毒で、病と嘘をつきました。ただ見舞いをするとおっしゃっていただき、あぁそれほど想っていただいていたのかと、で、ご内所に相談したところ、正直にお話をした方が良いとなりました。と、そう言えばいいのさ。
「あんたは本当に、なんで死んだと言われたら、なんて言うんですよ。」
そんなもの適当に見繕ってくれよ。
いや、医者にかからないのにしないと、診断書云々言いそうだね。医者にかからないフワフワと死ぬやつにしておくれ
「フワフワってあんた、そんなもの、そしたら、のたれ死になんてどうでしょう」
あんたさ、ここに住んでいるのにどうやってのたれるのさ、曲がりなりとも花魁が、じゃあ、焦がれ死ににしなよ。
「焦がれ死に、また大きな嘘で」
いいんだよ。そのぐらい言わないと可哀想だろう。
だー様が来られなかったので心配で、患ってないか、なんでお越しにならないのか、ほかに花でも増やしたのか、どうしたらいいだろうかと悩んでいたら、食べものも喉を通らず、糸のように痩せ細り、ある日、私の手を握り、あの方は罪な人、私は不幸な女、来世では逢えるかしらと言ったのが最後の別れとなりました。と、こう言やいいんだよ
「あんたまた、よくそんなこと後から後から考えつきますね」
あとはお前さんの芝居次第だから、涙でも流してやっとくれ。後生だよ。お願いだよ。お礼はするからさ。
「分かりましたよ。行ってきますよ。ええ。上手くいかなくても知りませんからね。
あぁなんでこと、情けねぇなぁ
だー様、ごめんくださいまし」
あぁ喜助か、どうした、上手く話しつけたが
「えっ、あー、だー様、あたくしはだー様に謝らなければならないことがございます。」
あっ、どうした、改まっで
「先ほど、花魁が患ったと申しましたが、真っ赤な嘘でございます。」
ほら、やっぱりそうだ。
「実はその、まことにお申しあげにくいことでございますが、花魁はお亡くなりになったんでございます」
お亡くなり!?やい、喜助、冗談でもそだんこと言うやつがあるか
「あっ、いえ、冗談じゃない、本当なんで、本当」
何が本当だ、おめぇ
「本当なんです、信じてくださいよ、信じるものは得をする。」
何言ってんだ、おめぇは
花魁お待ちしてますって待たすて、病ですって待たすて、おっ死んだなんて信じられるか
「いえ、そこをなんとか信じてください。信じにくいとは思いますが信じていただきたい、お願いしますよ」
何言ってんだ、そんなら初めに言えば
「そうなんです、そうなんです。ただ
夫婦の契りを交わした花魁がお亡くなりになったなんてお気の毒なことお申し上げにくく、病と嘘をつきました。あぁそうかとだぁ様がお帰りにツーと立った時に帰っていればこんなことにはならかったんですよ!」
何をいきとっるんだ、おめぇ、ええ、それでどうした
「どうしたこうしたもありませんよ。あたくしはだから困っているんじゃありませんか。だぁ様がお見舞いに行くって言うから、あの方はこんなに想っていると、ご内所に相談しました、では正直に話をするしかなかろうと、だから、こうしてお話にあがったんじゃないですか。」
そうか、われ、今泣いているな
「泣いていますよ!盛りのごとく泣いていますよ!」
何を蝉みたいなこと言ってやがんだ。そうかぁ、嘘で涙が出るやつはいねぇ。疑って悪かった。世の中分かんねえな、で、なんでおっ死んだ
「だぁ様がいけないんでございます。」
何、おらぁがいけねぇ
「だぁ様があまりにお見えにならないんで、心配で患っていやしないか、なんでお越しにならないんだろう、他に花を増やしたんじゃなかろうか、ずいぶん悩んでおりまして、食べものは喉を通らず、糸のように細くなり、ある日あたくしの手を握り、あの方は罪な人、私は不幸な女、来世では逢えるかしらと言ったのが最後の別れとなりました。」
おおおぉ、そうか、何ておらは悪いことを、そんなに待っていたのか、いつおっ死んだんだ
「あれはいつ、いや、だぁ様が最後来られた後の日でございます。」
当たり前だ、でいつだ、まさか五月二十日じゃねぇか、あの日夢の中に吉瀬川が出てきだんだ、お別れ言いに来たんだなぁ。
「そうでございます、あれは五月二十日でした、その後通夜と弔いと執り行いまして、もうちゃんと墓に入ってますので、もうやることは何一つもございません、あとは帰るだけでございます。」
待て、おめぇすぐに帰したがって、まぁこごにいねぇならけぇーるが
「お帰りで、お帰りはこちらで。」
待て待て、本当そんだけははぇーな。いや、一つ墓参りに行こう、案内ぶて
「ええぇぇ、えーん、えん」
何を泣いとんだ
「だぁ様の心遣いにですね、ですが墓参りなど結構なんです」
結構なことあるか、墓はどこだ
「墓は寺で。」
そんなこた分かる、寺はどこだ
「えー、あっ、あー、あっちいやこちらでしたか」
またはじめやがって、山谷か
「あ、はい、山谷でございます」
山谷なら遠くねぇし、夜も明けてきたから行って、手ぐらい合わせさせてくれや、案内ぶて
「いや、だぁ様、あたくしも勤めてございますので、お内所に伺いだけさせていただきたい。ちょいとお待ちを願います
あぁ、だからこんなこと嫌なんだ、嘘が大きくなっていく、あのぉ、行ってきました」
どうした?上手く行ったかい?
帰ったかい?
「帰りゃしませんよ。墓参りすると」
嫌なやつだね、墓参り?どこか遠くの寺って言ったんだろう
「いえ、それが山谷かと言われて、山谷ですと言ってしまいまして」
馬鹿だねぇ、肥後の熊本とか北海道の稚内とか言うんだよ、仕方ないねぇ、適当に寺と墓見繕って案内してやんなよ
「や、またそんなこと、だけど名前彫ってあんでしょう」
馬鹿だねぇ、何のために花があんだい、たくさん挿して隠せばいいじゃないかい、それに線香も束でつけてあおげば分かりやしないよ。大丈夫だよ。後生だよ。お礼はするからさ。
「あぁもう分かりました、もう乗りかかった舟だ、とことんやりましょう
「だぁ様、それではご案内をさせていただきます」
喜助、いや、おらがあとひと月早く来ていれば死なずに済んだかもしれねぇな
「いや、ひと月早く来ていたとしてもその時にはお亡くなりになっていたかもしれません。いや、定めのようなものでございますので」
で、どこだ墓は
「どの様な墓にいたしましょうか」
馬鹿野郎、墓を選びに来たわけでねぇ
「あっ、いやこちらでございます、こちらが本堂でございます」
寺ん中案内すんじゃね
「えぇ、この裏手でして、えぇチューチューなんばのチューなんばと、
どうもお待たせしました。
では、花と線香だけ先にあげさせてください。
「あっおほん、なんまんだなんまんだ、どこのどなたのお墓かは知りませんが、ちょいとお邪魔しますと、こりゃすごいな、だぁ様お待たせいたしました。」
「これか喜瀬川ぁあ、こんな姿になっちまって、南無阿弥陀南無阿弥陀
あぁあ吉瀬川、本当にこんな姿になっちまって、俺は信じられなかったが、おらを待って、ごほぉごほぉ、来世でも逢い、ごほぉごほぉ、喜助、扇ぐんでね、馬鹿やろう、こんだ線香、のろしあげてるわけでね、花だって飾ればえぇってもんでもねぇだろ、ごほぉ
ちゃんと見えね、だろ、天保三年?天保三年養空食傷信士(ようくうしょくしょうしんじ)、信士って男の墓でねぇか!
「あっ!!間違いました!
お隣で御座います、こちらでございます。」
馬鹿やろう!
よりによって墓間違えるやつがあるか!
喜瀬川、喜助が間抜けのせいで隣の墓拝んぢまった、聞こえてたんべ、安心してくんろ、もう二度とあんな、ごほぉごほぉ、ところ行かね、また扇ぎやがって、ごほ、ごほぉ、煙!うん、
知善童子、童子って子供の墓でねぇか!!
「間違いました!間違いました!
こちらでございます。」
馬鹿やろう、一度ならず二度までも、
今度は先に改めるからな
陸軍歩兵上等兵、
喜助!喜瀬川の墓はいったいどこにあんだ
「良いものばかり並んでおりますので、宜しいのをお見立て願います。」
Comment
4commnets
- Sken(エスケン)_オリジナル曲作詞作曲家
- てとら ⎉ ちょい浮上
- Sken(エスケン)_オリジナル曲作詞作曲家
- てとら ⎉ ちょい浮上おぉっ!!これは大作ですね✨ 僕が昔聞いたのは談志だったかな~この噺、面白いっすよね☺‼️