【声劇台本】嫉妬
読み手:名前 台本:立花蜜柑
【声劇台本】嫉妬
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あれ、なにしてるんだろ。
急に大きな渦に呑み込まれた。
黒い、大きな、大きな渦に。
胸が苦しい。息ができない。足場のない不安が、自らの藻掻く足を動かした。
私、何しようとしてるの?
それでも沈みゆく私の身体は、どんどん渦に呑まれていく。
どうにか上へ、この渦から抜け出したい。
自分ではどうしようもない大きな力に、私は何かを掴もうとした。
やめて。こんなこと。
そこには色々なものがあった。
小石、海藻、中身のない貝殻、人の捨てたゴミ…
掴んでは放し、掴んでは放し、その物の実体が分かればすぐに放した。
すると、ある物を掴んだ。
お願い…やめて。この人を、この人を傷つけるのは。
実体のわからないもの。これなら、私を渦から救ってくれる。
やめて…お願いだから…
私はその物を、あの人に、彼に向けた。
「…ごめんね。」
鋭く光ったその物は、彼の胸に深く刺さっていった。
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