吾輩iは猫iである⑥
燭台切光忠(CV伊先)
吾輩iは猫iである⑥
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#ぶんごー男士っ
吾輩は投げ出されては這い上り、這い上っては投げ出され、何でも同じ事を四五遍繰り返したのを記憶している。その時におさんと云う者はつくづくいやになった。この間おさんの三馬(さんま)を偸(ぬす)んでこの返報をしてやってから、やっと胸の痞(つかえ)が下りた。吾輩が最後につまみ出されようとしたときに、この家(うち)の主人が騒々しい何だといいながら出て来た。下女は吾輩をぶら下げて主人の方へ向けてこの宿(やど)なしの小猫がいくら出しても出しても御台所へ上あがって来て困りますという。主人は鼻の下の黒い毛を撚(ひね)りながら吾輩の顔をしばらく眺めておったが、やがてそんなら内へ置いてやれといったまま奥へ這入っ(はいっ)てしまった。主人はあまり口を聞かぬ人と見えた。下女は口くやしそうに吾輩を台所へほうり出した。かくして吾輩はついにこの家(うち)を自分の住家(すみか)ときめる事にしたのである。
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