【声劇】『透魚』
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【声劇】『透魚』
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ひとつ、昔話をしようか。
私もおばあちゃんに聞いただけなんだけどね──
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『透魚』
むかしむかし、あるところに一匹の体の透けたヘンテコな魚が海に泳いでいた。
陸に上がってみたい。そんなことを考えた時もあった程の変わり者だ。
…出来なかったのだけれど。
その時魚は初めて光、というものを知った。
今まで必要なくて退化してしまいきちんと見えはしなかったけど、とにかく眩しかったのを今でも覚えている。
結局のところは、大雨によって元の水圧のところに戻ってしまったけれど。
鮫が長命なのは喰ってばかりの人間サマも知っているみたいだけど、案外我々のような種族は長命の様で大分長いこと生きている。
長命の種は別れの種族、なんてどこかの地域の人間サマは呼んでいるみたいだ。
いつだって置いてきぼりなんだ。
何度やってもうまくいかない。
陸に上がることもせず、ただ眺めてるばかり。
だから決めた。置いてきぼりになる前に次へ透けよう。
違う海へ。遠く潜ることにした。
大丈夫、話を聞くのは好きなんだ。
自分の寂しさを滲ませないために、一緒に行くことは望まないから。
幸せだと笑うきみに別れをそっと告げて、透ける魚は旅に消える。
百年後、また会えるといいね。
魚は、きっときみのことを覚えているでしょう。
そうしてまた魚は透ける。
#三月声劇
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