あじさい電車
川江美奈子
あじさい電車
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あじさい電車
水無月の闇を行く 淡き電車の音
照らされた紫陽花の無口な佇まい
どこまでも どこまでも 揺られてゆきたくて
零れ落つ優しき言葉を 待っていた
その胸を満たしていく あの鐘は黄昏
寄り添いし黄昏は おぼろに薄れゆく
今一度振り向いて 張り裂ける想いで
どうかただ 憎まずにいたいと祈っていた
あの日々は あの日々は 何を教えるため
もう同じ駅に 降り立つ事は無い
十年の彼方から響く 電車の音
五分咲きの紫陽花が まぶたを染めてゆく
水無月が来るたびに走るあの電車は
想い出にしまわれはせず 今もゆく
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