§幻想舞踏会§ 第八話~白と青の心理戦(?)~
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§幻想舞踏会§ 第八話~白と青の心理戦(?)~
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第八話~白と青の心理戦(?)~
それは、初めての試合予告が空に映し出された数日後の事だった。
全部隊の隊士が自由に出入り・交流が可能である中央の大きな島、
【雲上中央広場】にとある噂が流れたのである。
それは何を根拠に流れたかも、
ましてやどんな利害を生むかも予測不可能な、
あまりにも戦いとは無縁の噂…
『青風八咫烏隊に可愛いツンデレ隊士(♂)がいる』
というものだった。
そんな噂がなぜ流れたかも不明な為、
様々な所から憶測が飛び交う中、
その噂は、様々な人の口伝により、とある隊長の耳に入った。
その隊長は自身の拠点島の中央、真っ白で太陽の光を吸収し淡く光っているような建物の上階に位置する、
隊長室の窓から中央広場を眺めながら不敵な笑みを浮かべていた。
「うふふ、面白そう…!」
~~~
「ねーねー!実の所どうなのさぁ!」
「…耳元で騒がないでくれるか?
あと俺は断じてツンデレではない!」
様々な隊士がチラホラと行き交う中央広場の隅で、そんなやりとりが繰り広げられていた。
赤の国の女性用魔道騎士の鎧を身に纏う暁月と、
青の国の大学指定制服をキッチリと着こなしているボブだった。
「そもそもなんでそんな根も葉もないデタラメが他国にまで流れてるんだ…。
流した犯人はどいつなんだ…
まさか身内じゃないだろうな」
「それは知らないよぉ、こっちも噂が流れてきただけだからぁ。
青風八咫烏隊なだけにまさに<風の噂>だったね!」
「(上手い事言ってくれる…)まったくつまらない言葉遊びだ。」
「それもツンデレなんでしょう~?ボブ君可愛いんだからぁ~」
ケラケラと笑いながら暁月は楽しそうにボブの周りをウロチョロする。
「…何を言ってもそう受け取る気か…!
と、ちょっと止まってくれるか。
そこ足元気を付けてくれ、そこに咲いてる花は貴重なんだ。」
ボブは、暁月の足元に咲く可憐な花を繊細な手つきでなでると、とても優しい目をして見つめていた。
「あ~…こりゃ噂もあながち本当だねぇ」
暁月がまじまじとそんな仕草をみせるボブを見ていると、
背後に人が立つことによりできる影によって視界が一気に暗くなった。
人影に気づいて、ボブと暁月は顔を上げると
「ごきげんよう。」
そこには白の国の光姫が、扇で口元を隠しながらも目はとても楽しそうに笑った状態で立っていた。
まるで、とても面白いおもちゃを見つけた時のように…
――… 一方その頃 …――
白の拠点島内、隊長室では…
開け放たれた窓と、机に残された一枚の紙を見て
プルプルと震えるまりーの姿があった。
紙には
『ちょっとレインちゃん連れて遊びに行ってくるね!
書類仕事の代筆ヨロシク☆』
とだけ書かれていた。
「あ…あ……あの姫ぇ…!
また私に仕事押し付けて遊びに行ったな!!
…そんなことよりも、あのちゃらんぽらんが他の国の方々にバレたら…」
まりーは窓を閉じ、荒々しくカーテンを引っ張ると
飛び出すように部屋を走り出ていった。
~~~
「おお、これは光姫様!お会いできて光栄です。
…と、後ろにいるのはレインちゃん???」
暁月は慣れた動作でお辞儀をすると、後ろにいる人物に声をかけた。
「あ、暁月ちゃん!やほー」
彼女らはここへ来て早々に中央広場で仲良くなっていたのだ。
「あら、ではレインさんは暁月さんと雑談でもなさっててくださいな♪」
「はーい♪」
光姫は少し離れたベンチへ楽しそうに去っていく2人を見送ると、静かにボブを見据えた。
その目は、とてもキラキラと無邪気な光を宿していた。
ボブは膝に着いた土を払い、立ち上がる。
「…。な、何か…」
「ええちょっと、とある噂を耳にしたものでして…
【青の隊にとても面しr…可愛らしいツンデレ君がいる】と。」
(今なんか言い直したよね!?)
「次の対戦相手とはいえ、この噂をキッカケにお話に花を咲かせて楽しく交流したいと思って参りましたの♪」
ボブはゴクリと生唾を飲むと、思考を巡らせる。
(…この方、なんだか最初の時と雰囲気が違うような気がする。
どちらかというと玲華に似てるような…
しかし!
相手は他国の姫君!
外交上失礼なことはできない…!
だがここで
「あ、それは自分のことですね」
なんて言ったら…
何を言われる or されるか全くわからない!!
これはコミュニケーションの予測演算が不可能案件だ。
この状況で最善の回答は…
…
……
………しらばっくれる!!!
そして、自然に戦線離脱だ!!!)
フウ…と、一息つくとボブは慎重に言葉を並べていった。
「はて…そんな隊士いましたか…。
私で良ければこの後お探ししておきましょう。」
光姫がクスッと笑った。
「まあ!なんて親切なんでしょう。
ありがとうございます♪
では私はあいにくこの後も時間がありますので、
お言葉に甘えて【一緒に】探していただくとしましょう。」
(しまった…)
ボブは選択肢を間違えた。
「私が探しているのは、件の噂の張本人らしい、
・青の国の大学にて生物魔法化学科専攻
・青の国独自の学問である『君主学』のS適正保持者
・自分の欲に素直で、特に植物に目が無いという
・理事長の御子息であるそうまさんと仲の良い
【ボブ】という男性です。
…心当たりはありますか?」
光姫は口元を隠すのを止め、満面の笑みを見せていた。
(…どう考えても俺の事だぁぁああ!!)
「さ、さあ、いましたかねそんな隊士…。
あ、自分はちょっとこの後用事があったのを思い出しましたので
その条件に合う隊士を見かけたら後日ご報告に上がります故このへんで…」
「あら、残念…。
では最後に貴方のお名前を教えて頂けますか?」
「わ、私でありますか。」
ボブがぎこちない笑顔で、返答をつまらせ、
わずかな沈黙が訪れたと思うと…
「………ん?」
こちらに向かってくる足音がしていることに2人は気づき、振り返った。
「ひ~め~さ~まぁ~!!」
まりーが物凄いスピードでこちらへ走ってきていた。
「あら☆」
「あら☆じゃないですよ!探したんですからね!
なんですかあの置手紙!?
また私に仕事押し付けて、あろうことか窓から脱出するとかなんてお転婆な事を…」
まりーのマシンガン説教に圧倒されてボブは呆然としていた。
するとハッとボブの存在にようやく気が付いたまりーが、
しまったと言わんばかりの表情を見せると、コホンとごまかしの咳をひとつついた。
「し、失礼しました。姫様はこの後公務がありますので、
申し訳ありませんが私達は失礼させて頂きたく…」
「いえ、大丈夫です」
心の中でホッと安堵の溜息をもらすボブは、冷静を装い返事をする。
「では私もこの後用事がありますので失礼します。」
そうお辞儀すると、ボブは2人に背を向けた。
「…最後にひとつよろしくて?」
去ろうとする背中に光姫が声をかける。
「…姫様?」
(あと少しだけ!戻ったらちゃんと仕事するから!)
そんな表情でまりーに目配せをする光姫に、
まりーはため息をひとつつくと、後ろに数歩下がった。
「な、なんでしょうか?」
ボブはぎこちなく振り向く。
「次の試合、ソロでお出になりますか?
【ボブ】さん」
(…最初から正体バレてたのかよ!!!
一応ソロの予定だけど…)
「…まだ隊内の編成も仮として動いている為、確実ではありませんのでお答えしかねます。」
「そうですか…、あなた現在のランクは?」
(これは公式に全部隊へ発表された内容だ。嘘はつけない。)
「…ランクAAという評価を頂いております。」
この島に招かれた時、全ての国の隊士は暫定的な実力ランクを与えられていた。
あくまで現段階での暫定的な評価なので、昇格システムもあるらしい。
(そうまはランクS、確か光姫様の後ろに控えてる人は俺と同じランクAAだったか…
そして光姫様は…)
各員のランクを思い出してると、光姫が口を開いた。
「…では、ボブさん。
あなた、
今回の戦いで
二試合目にお出になってくださいます?」
「……はい?」
「へ?」
ボブとまりーが同時に変な声を上げる。
「二試合目のソロに出てくださいまし♪
お相手しますわ、
うちの【まりー】が!」
「はい…!?」
「姫様あああ!?」
ボブの声を遮るようにまりーが悲鳴をあげた。
光姫が続ける。
「うちのまりーは貴方と同ランクですの。
実力が拮抗している者同士の熱いバトルが見てみたくって♪」
ボブは突然の申し出に混乱の表情を隠せなかった。
(いやいやいやいや、これはなんだ?挑戦か?好奇心か?それとも何かの陰謀か?
乗るべきか乗らざるべきか、それともスルーしていいものか
しかし何度も言うが相手は他国の姫君!
無礼を働けば俺の将来が危うい!
つまりこれは国単位での外交…
くそ!一学生にすぎない俺にどうしろってんだ!
本気で文学の成績を重視して交渉術を身に着けるべきだったか!
…まて、後悔は後だ!今はここをどうやって切り抜けるかに全脳神経を働かせろ!
大丈夫だ、そうまだってやってる。
そうまの真似をすれば…)
「面白そうですね。」
(そう…そうまだったらこう言うはず…
………
って、なんだと!?
ちょっと待て、俺は何もしゃべってない!!)
その台詞が自分のモノでない事に、ようやく気付いたボブが声のした方へ振り返ると
そこには笑顔のそうまが立っていた。
「あら、青風八咫烏隊の隊長様、ごきげんよう♪」
「あはは、そうまでいいですよ。」
そうまはいつもの調子で飄々としている。
「ボブ、君が良ければこの話乗ったらどうだい?」
「いや、しかしだな…」
そんな様子をみて光姫の目が怪しく光った。
「いわばこれは実力の拮抗した者同士の勝負…
負けを恐れているのであれば、こちらも強制はしません。」
(姫様煽らないで!!!)
今度はまりーの心の声が悲鳴をあげた。
「…が、こちらの突然の不躾な誘いととられても仕方ありません。」
光姫が言葉を続けながら、袂から一輪の光り輝く花を取り出した。
「こちら、つまらないものですが…
我が国の研究室で育てている絶滅危惧種の希少な植物を、
魔法科学技術で品種改良した、先日できたばかりの新種の花です。
良ければどうぞ♪」
ニッコリと笑顔を見せながらボブへその花を見せる。
(これは…!!!
光量が非常に多い所でしか咲かないという幻の花!
それをさらに品種改良した新種だと!?!?)
「ありがとうございます。この勝負受けさせて頂きます。」
即答だった。
(物に釣られたあああ!!!)
まりーが声にならない叫びを上げながらもだえる。
そうまはボブの即答っぷりに笑いを堪えていた。
「どうぞもらってくださいまし♪
用事もあるようですし、御引き止めして申し訳ありませんでした。
私達も失礼しますね、
では先の試合、楽しみにしております。
ボブさん、そうまさん、ごきげんよう♪」
軽く放心しているまりーを引き連れて光姫は去って行った。
ボブはすでに手中の花に夢中になっている。
そうまはフゥッと一息つくと、空を見上げた。
「…編成組み直すか~」
こうして試合はそれぞれの思惑を含みながら、刻々と近づいて行った。
試合まで、
あと8日。
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