つい歌いたくなる曲だよなー
○16号室の彼女の部屋の入口には腰ほどの高さの芥子色のタンスがある。
そのタンスの上には男性の写真が飾ってあり、写真の前には小盛のご飯と一口菓子、小さな花が置かれている。
おそらく男性は彼女の伴侶で、先にあの世へ行ったのだろう。
僕が記録をとっていると、広間に出ていた彼女が部屋に戻ってきた。彼女は開口一番にこう言った。
『ねえ、あの人は?晃士は帰ってきていないの?私の旦那の晃士は?』
…なるほど、彼女は時間に取り残された人だったのか。
先逝かれたことをさっぱり忘れ、彼女は命ある限り旦那の帰りを待っている。
死ぬまで彼女は心の底から安心することはできないのだろう。
今日も廊下をさ迷い歩き、大広間できょろきょろとしながら、彼女は愛する人の帰りを待っている。
〇16号室 〇△ 本日も異常なし
#わかば備忘録
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