第1話『情報店』
【BGM:幽霊屋敷の首吊り少女/トーマ】
第1話『情報店』
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月詠情報店ヨコハマ支部 第1話
『情報店』
泥の中を征くかくも美しき変人達の物語は、1人の青年と男の偶然の出逢いから始まった。
──もし、その出逢いが偶然でなければ。
何者かによって手繰られた、必然的な避けられない事象だったとしたら。
この世には、運命という物が少なからず存在する。
儚くも強かな糸で結ばれた、因果関係の下に集う迷い犬達──却説。
「──情報店、ですか?」
時は夕刻、此処は探偵社。
いつも通りせわしなく動き回る国木田を横目に、敦は先程ぽつりとその名前を漏らした男──太宰に聞き返した。
当の太宰は組んだ手の上に顎を乗せ、窓から差し込む斜陽に目を細めながら、いつになく深刻そうな表情で空間なき空間を──虚空を睨むように見つめていた。
「そういう風に名乗る勢力が、目撃されているらしいんだ。今のところ目立った行動はないんだけれど………どうやら彼ら、“魔法”を使うらしい。」
含蓄のある太宰の声色に、敦が顔色を変える。さっと青くなった顔色とひきつった顔の筋肉が、これから起こるかもしれない数々の可能性ある未来を物語っていた。
やっと喉から絞り出したように、敦がか細い声で言う。
「だ、太宰さん、それってつまり…!」
太宰は静かに頷き、億劫そうにその蓬髪を掻いた。
「──異能力者、そう考えるのが妥当だろうねえ」
同刻、ポートマフィア本拠地。
熱心に絵を描くエリス嬢を微笑ましげに、さながら肉親のように見ながら(という表現は、この場合皮肉になるのかもしれないが)ポートマフィアの首領、即ち森鴎外その人が、いつも通り穏便な口調で部下にちらりと目線をやる。
発言権を得た事を鴎外の目を見つめ返すことで確認したその部下が、その平均よりいくばくか低い背筋をスッと伸ばした。
煉瓦色の癖毛に黒い外套ーーポートマフィア幹部、中原中也だった。
「…お言葉ですが首領、実的被害がないのなら我々が動くまでもないのでは?」
帽子を脱いであらわになった何色ともうまくは形容しがたい色の髪が、差し込む夕日を浴びて一層美しい。
斜陽に目を細めることもせず、酷く無表情に、淡々と話す中原の、掠れ気味の微低音が部屋に響いた。
「不穏因子は早めに摘んでおくのが善い。そうだろう?…それに、話によると連中の中には異能無効化の能力者もいるらしい。」
鴎外もまた組んだ手を机の上にのせ、さらにその上に顎を乗せて、時折片手で書類をめくりながら酷く楽しそうに続ける。
ここへきて初めて、中原が感情らしい感情のこもった声を出した。
「あンの…ッ青鯖と同じ能力、ですか」
今現在この部屋には鴎外と自分、それからエリス嬢しかいないが、下手な発言をすれば一瞬のうちに嬲り殺されるのだろうと中原は思うでもなく思う。
別段それが恐ろしい訳ではなかった。この社会に入った時から、その事は重々理解してきた心算だ。
まして、この社会から逃れたかつての相棒が羨ましい訳でも──なかった。
恨みは有り余っているが。
鴎外が書類から目を上げ、楽しそうに目を細める。
中原はその姿に、無意識のうちに相棒の──『元』相棒の面影を重ねた。
きゅっ、と中原の顔が一瞬、ほんの一瞬だけ苦しそうに歪められた。
泣き出す寸前の、子供のような顔だったが、再び書類へと目を落とした鴎外が、その表情を見ることはなかった。
「……君も新しい相棒が欲しくなってきたところだろう?」
書類のページをめくりながら、鴎外が蠱惑的に囁く。
「それは──」
中原はわずかに言い澱む。
はい、と素直に言えればよかったものを、どうもこの首領と喋っていると太宰のあのいけすかない顔がちらつく。
心の中に澱のように溜まった気持ちも整理できないまま、彼は僅かに、困惑したように眉根を寄せた
「…芥川くんと樋口くんを手配しよう。中原くん、行ってくれるね?」
にっこりと笑う鴎外から目を逸らす事も、何かを言う事もできずに、中原は拳を握りしめていたが、やがて諦めたように拳を解いて力なく頷いた。
高かった日も沈み、あたりは闇に包まれようとしていた。
太宰治 cv.yaiyu。(https://nana-music.com/users/5115237/)
中島敦 cv.gacho (https://nana-music.com/users/1567629/)
森鴎外 cv.神桜みさ (https://nana-music.com/users/4690228/)
中原中也 cv.ぜろし (https://nana-music.com/users/1807584/)
脚本 モアイ(https://nana-music.com/users/1905301/)
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