【近代文学】春琴抄【声劇台本】
睡蓮
【近代文学】春琴抄【声劇台本】
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今回はじめてこういった台本というものを作らせていただきました。
はじめまして、睡蓮と申します。
この作品の背景には、谷崎潤一郎氏の「春琴抄」という作品がございます。この物語は春琴という女性にまつわる物語ですが、今回は佐助という人物に焦点を当てたものにしてみました。
稚拙な文でお恥ずかしく思いますが、どうか皆様のお声で演じていただけましたら幸いです。
このシーンは、災難により顔に大火傷をおった春琴が快方に向かい始めた頃の思い出を後に語っているといったもので佐助の一人芝居という形をとらせていただいております。
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「みてはならぬと仰っていたものを。どうしてその言葉、私が違えることがありましょう。」
あの災難があってさえ、お師匠様は本当に美しい方で、それは何も変わるところがないというのに、私にだけは顔をみられたくないと包帯の上から眼に手を押し当ててそう仰るのです。
「ようございます。必ずお顔を見ぬようにいたします。ご安心なさいませ。」
私はそう申しあげ、あの方の包帯がいよいよ取れるということになった日の早朝、私は自らの手でこの両目を潰しました。
白目は硬いけれど、黒目は柔らかい。
ズブリと針が入ったかと思うと、たちまち視力が失せていくのがわかりました。
それでも初めのうちは薄ぼんやりとした輪郭がまだわかっていたのですけれど、やがてそれすらも見えなくなり、私は完全に目しいとなりました。
これでやっと、やっとお師匠様と同じ世界に住むことができる。あの方の世界に触れることができる…そう思えばこんな痛み、なんてことありませんでした。
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- 詩稀台本お借りしました!