翌日の晩、彼は喜び勇んで出かけました。かねて見当をつけておいた質屋の蔵へ行って、その戸口で術を施ほどこしますと、不思議にも、戸と壁とのわずかな隙間から、すーっと中にはいり込むことが出来ました。それで、立派な着物や時計などを思うまま盗んで、いざ外へ出ようすると、さあ大変です。同じ隙間ではありますが、はいるのと出るのとは別だと見えて、いくら術を施しても出ることが出来ません。戸を開けようとしましたが、外から錠がおりています。窓の所へ行ってみましたが、太い鉄棒の格子がついていて、身体が通りません。どうにも仕方がありませんので、盗んだ品物をみんなそこに投り出して、暗闇の中に屈み込んでしまいました。けれども、夜は次第しだいに寒くなるし、腹は空いてくるし、もうたまらなくなりました。