とある一家の御茶会議
Sooty House - Girl in the mirror -
とある一家の御茶会議
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【 世界は、今日も廻ってる 】
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今日は、少しだけ久しぶりな外の掃除の日──すなわち、ラヴィとアンジュと会う日です。
「おはよう、エリー。一人? 早いわね?」
「あっ、おはようございます、ミ──マイア!」
少し早く向かった集合場所には、マイアがいました。
マイアは、自分のことをミラ様に告げる、と言っていましたが……あれから、どうなったのでしょう?
「エリー、ミア。おはよう」
「おはよう、ございます……エリー、ミア」
マイアとそれ以上の話をするまえに、ラヴィとアンジュがやってきました。
二人とも仲良しさんです。ベラ様とマヤ様も交えてお茶会をしたという話ですし──きっと、そのお茶会で、ラヴィの疲れがとれたのでしょうし──絆が深まるのも当然ですね!
「おはようございます。あの……ラヴィ、アンジュ」
などと、勝手に二人の関係性について考えながらあいさつを口にしたエリーは──すぐに、頭を下げました。
「このあいだはごめんなさい。せっかく二人が元気づけようとしてくれたのに、心から楽しめなくて。心配を、かけてしまって……」
「そっ、そんな……か、顔を上げてくださいっ、エリー……!」
あたふたとした様子でそんなふうに言われて、おそるおそる、姿勢を正します。友達を困らせたいわけではありませんから。
二人とも、怒った顔はしていません。
けど──笑顔というわけでもなくって。
「エリー。謝らなくても大丈夫。アンジュ達は、エリーの力になりたいだけだから。だから……よかったら、教えてほしいの。一体、何があったの?」
宝石を思わせる澄んだ瞳に真っ直ぐ見つめられて、どきっ、としました。どきどきです。
その言葉が、気持ちが、本物であることが伝わってきました。
アンジュが、そしてラヴィが──ほんとうに、エリーを元気にするためなら何だってしたい、と思ってくれているのが。
そのやさしさが。あたたかさが。
──光が。
エリーの心に、届きました。
けど。
「え、えっと……」
けど、エリーは口ごもりました。口ごもることしかできませんでした。
ここは、お部屋の外。
たくさんの生き人形の目がある、大きなお部屋なのです。
こんなところで、エリザベスが言っていたことを口にしてしまえば……、……どうなるのでしょう? どうなるというのでしょう?
咄嗟にその答えがわからなくて、わからないということに戸惑ってしまいました。
想像もつきません。けど、とても良くないということだけは、なんとなくわかります。
「あ、あの……此処だと恥ずかしい、とかでしたら……このあと、ベラ様の部屋に来ませんか? そこなら……」
「……仲が良いのは結構だけれど」
口ごもってしまったエリーに、ラヴィがそんな提案をしてくれたところで──ずっと黙っていたマイアが、口を開きました。
その声はすごく落ち着いていて、表情もこれまで通り淡白です。
けど──そこにぬくもりを感じるのは、エリーの思いこみなのでしょうか。
「今は掃除の時間よ。私たち生き人形は、シャドーハウスの役に立ってこその存在。お話はそのあと、ベラ様のお部屋までとっておきなさい」
「……それ、って……!」
しー、と。
一瞬、唇に人差し指をあてたマイアは、すぐに掃除を始めてしまいました。
「……今の、って」
「……ラヴィ達が、このあと仲良くするのを……余計なことを、許してくれた……ってことですよね……?」
……あったかい。
みんなのやさしさが心に沁みて、とってもぽかぽかしています。
なんだかとっても泣きだしそうになってしまいながら、エリーも掃除にとりかかりました。
◇◇◇
「ただいま帰りました」
「お邪魔します」
「お、お邪魔します……!」
ラヴィ、アンジュにつづいて、おそるおそる、ベラ様の部屋へ入室します──さっきからおそるおそるばっかりですね。
アリス様の部屋とエリザベスの部屋以外の部屋に入るのは、初めてです。他人様の部屋、という意味での緊張はありませんが、初めての部屋、という意味では緊張します。
そうして初潜入したお部屋は──雰囲気や家具の位置は、アリス様のお部屋とほとんど変わりませんでした。
ただ、違うのは、
「おかえり、アンジュ、ラヴィ──おや。今日はもう一人、お客さんがいるみたいだね?」
「ねぇマヤ、此処はベラの部屋なのだけれど? マヤもアンジュも、ベラが招待したお客さんのはずなのだけれど!」
アリス様の部屋と同じ位置にある机と椅子には、ベラ様だけでなく、マヤ様もいらっしゃいました。
『お披露目』のときから楽しそうなやりとりをされていたお二人ですが、やはり、『お披露目』のときよりも、その親密度は上がっている気がします。
「今日は、もともと四人でお茶会をする予定だったんです」
マヤ様たちのほうを見ていると、ラヴィがはにかみながら解説してくれました。
なるほど。お茶会は一度きりではなく、定例開催なのですね!
「……って……そんな日に、エリーが来てしまってよかったのですか……!?」
大きな声が出てしまいました。派手なリアクションで、しっかり注目を集めてしまいました。ちょっぴり恥ずかしいです。
四倍の視線を浴びつつ、エリーは勢いよく頭を下げます。
「すみませんっ、ベラ様、マヤ様! エリー、今日が四人のお茶会の日だとは知らなくって……」
「いいのよ、エリー」
と。
そんなエリーを許したのは、ベラ様でもマヤ様でもなく、アンジュでした。
「マヤ様もベラ様も、エリーのことをとっても心配してるの。だから、安心して。安心して話して。アンジュたちは、絶対にエリーを嫌いになったりしない。エリーの味方だから」
「アンジュ……」
「そ……そうですよ、エリー……! ラヴィ達は、絶対にエリーを応援します。何があっても、見捨てたりしません……エリーがまた、前みたいに笑える、その日まで……! だから、落ち着いて……話せそうだったら、話してくださいね……?」
「ラヴィ……」
二人の言葉に、また、胸の奥がじんわりとあたたかくなっていきます。
さっき、エリーが口ごもってしまったから、不安を取り除いてくれようとしてるんですね。
ラヴィもアンジュも、ほんとうに──ほんとうにほんとうに、とってもやさしいです!
そんな二人と同じ班になれて、同じ時に『顔』になれて、友達になれて。
ほんとうに、うれしいです!
「……ありがとう、ございます……!」
うれしい気持ちを伝えたくって、今度は勢いをつけず、丁寧に丁寧に頭を下げました。
ラヴィが淹れてくれた紅茶が全員に行き渡ったところでラヴィが着席し、五人でテーブルを囲む形となりました。
それは、お茶会の準備の完了──つまり、お茶会の開始を意味します。
「……、……」
紅茶を一口飲んで、深呼吸。
ほどよく甘くて美味しいです。丁寧に丁寧に淹れてくれたのが伝わってきます。
けど、エリーが普段アリス様のために淹れているものと比べると、ぜーんぜん甘くなくて──自分の精神の隅々までアリス様が浸透していることに、また、胸がきゅぅっとしました。
「……聞いてしまったんです。エリザベスが、言っていたのを……」
きっと大丈夫、と。
ラヴィとアンジュなら、そしてベラ様とマヤ様なら、どんな話をしても、きっと大丈夫──そう思えたはずなのに。
いざ話し始めると、誰の顔も見ていられなくて──つい、紅茶の水面(茶面?)を集中して見つめてしまいます。
あんず色に浮かぶエリーの表情は、悲しく歪んで、今にも泣き出しそうでした。
「エリーは……生き人形じゃないから、此処に来るべきではなかった、って」
四重に息を呑まれて、エリーは思わず苦笑します。
苦笑? 強がって笑っただけといいますか。
でも、強がらせてください。そうでもしないと、とてもじゃないですが、話せそうにないのです。
「それを……アリス様に教えているのを、盗み聞きする形になってしまって……」
所在なくなってしまった両手で、意味もなくカップを包みます。カップの材質の温度を伝える力がどれほどのものかはわかりませんが、エリーの手のひらに伝わるのはほどよいあたたかさだけで、火傷の心配はなさそうです。
「……エリーは、アリス様に望まれたからこそ、アリス様の『顔』になるために作られ、命を吹きこまれたのだと思っていました。けど……エリーが生き人形でない以上、きっと、それは間違っていて。そしたら……アリス様とどう接するべきなのか、わからなくなってしまいました」
カップの中のエリーの顔が、ゆらゆら揺らめいて、上手く見えなくなりました──いえ、エリーの顔だけではありません。
視界の何もかもが、揺れて、濡れて、滲んで。
上手く、見えなくなっていきます。
「アリス様は、ずっとなにかを考えこまれている様子なのに……エリーには、何でもないような態度をとるんです。いつも通りに振る舞うんです。エリーはちゃんと、お話がしたいのに……アリス様は、違うのでしょうか? エリーの存在意義なんて……どうでもいいのでしょうか?」
「それは違うわ!!」
沈黙を引き裂くよく通る大きな甲高い声に、滲んでいた涙が引っこみました。
気分が沈んでいたので、ずぶずぶと沈んで、沈んで、沈みきっていたので、突然の外界からの刺激に、ほんとうに驚いてしまいました。
「アリスの考え事は、エリーのためなのよ! ……あっ、の、はずよ!! ベラはアリスには話を聞いたわけではないからっ、わからないけれどね? け、けど──少なくともベラは、自分の『顔』に無意味に隠し事をしようとは思わないわ。ましてや、信頼しなかったり嫌ったりするなんて、もってのほか! シャドーとしてありえないわよ!」
びっくりしているエリー達を置き去りにしながらそう語るベラ様に、「ワタシも、」と、落ち着いた様子で手を挙げたのは、マヤ様でした。
「ワタシも、ベラの意見に賛成だよ。愛しいアンジュに、秘密なんて作らない。だって、アンジュを大事に思っているからね。そしてそれは、アリスも同じはずだ。アリスも、エリーのことが大好きに決まっている。きっと、話す準備ができていないだけで……今も、エリーのことを想って、帰りを待ってくれているんじゃないかな」
「……!」
ひどい悪夢から、目覚めたような感覚。
あんなにも、ずっとずっと、嫌な気持ちがぐるぐるぐるぐる回って、抜け出せなかったのに。
ついさっきまで、暗い奈落へ落っこちていたはずなのに。
こんなにも容易く、すとんと腑に落ちて。
光が、見えて。
エリーは、自分がみんなを照らさないと、って思っていました。
けど──それは、違ったんですね。
エリーが辛い夢に囚われてしまったら、大切な仲間が照らしてくれる。
何も、怖がることなんてなかったのです。
すべての答えは、すぐそばにありました!
「──ありがとうございます。ベラ様、マヤ様──ラヴィと、アンジュも」
アリス様は、エリーを大事にするために、たくさんたくさん、考えてくれている──のかもしれない。
きっと、考えがまとまるまではいつも通りに接して、答えが出たら、エリーに教えてくれるのですよね。
だとすると、もしかしたら、エリーがきちんと受け止められるかとか、どうしたら傷つかないかとかで、アリス様を悩ませてしまっているのかもしれません。
だったら──だったら、エリーから話さなくっちゃ!
「エリー、アリス様に伝えようと思います! エリーは、どんなことでも受け止めますから──ちゃんとお話ししましょう、って!」
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𝒍𝒚𝒓𝒊𝒄𝒔
🥀ぱっと深く深い奇妙で苦い夢から覚める
🎩頬を伝う汗、気分が良いとはとても言えないな
🥀🎩ずっとウィリアムとジョセフが創りあげた名作が
🧸頭の中エンドレスループ再生
🕊️おや 心配しないで
誰よりも優しいアプリコットティー
⏳大丈夫だよ、もう誰も彼も
傷つけたりだなんてねしないから
⏳🕊️角砂糖3つカップに投げ入れくるくる廻す
🧸安心した、世界は、今日も廻ってる
⏳🕊僕 ケーキも大好き、君も大好き
🥀🎩銀のさじでソーサー叩けば古代魚と
海の底の遺跡へトリップ!
🧸僕の事嫌いになった?って聞いたら
🪞頭撫でられた
とある一家の御茶会議(ティーパーティー)
𝑪𝒂𝒔𝒕
🧸エリー(cv.おとの。)
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🥀ベラトリクス(cv.あかりん)
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⏳ラヴィ(cv.木綿とーふ)
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🎩マヤ(cv.はいねこ)
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🕊アンジュ(cv.春野🦔)
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