阿吽のビーツ
Sooty House - Girl in the mirror -
阿吽のビーツ
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【 消えないように此処に居なよ 】
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「……あ、これは……」
ラヴィとアンジュの退室後。
ベラの本棚が見たいというマヤのお願いで、マヤとベラは、ベラのお部屋のベラの本棚の前に立っていた。
「その絵本が、どうかしたの?」
マヤが手に取ったのは、絵本と呼ばれる書物。理解しやすいおはなしが、絵と一緒に、易しい言葉で綴られているのよ!
「ワタシが気に入っているもののひとつなんだ。ベラは、読んだことがあるかい?」
「もちろん! この部屋にある書物は、ベラのものだもの! ぜーんぶ二回どおりは読んでいるわ!」
「おや、それはすごい。流石ベラだね」
「当然よ! このぐらい普通だわ! だってベラは、完璧な『顔付き』のシャドーなんだから!」
胸を張るベラに「ふふっ、そうだね」といつものように笑った(顔は見えないけれどね!)マヤは、「……この絵本は、」と語り始める。
「この絵本は、一人で読んだ際も、なかなか面白いと思ったのだけれど──アンジュが、興味を持ってくれてね。一緒に読んだ一冊でもあるんだ」
「ふうん? マヤはほんとうに『顔』と仲が良いわね?」
「……うん。アンジュはほんとうにワタシのことを慕ってくれているし、ワタシもそんなアンジュが可愛くって仕方ないよ」
コンコンコン。
ベラ達の会話は、マヤがアンジュを心配しすぎなのが滲み出ちゃってるのを指摘するかしないであげるかでベラが結論を出すまえに、お部屋の扉が小気味よく叩かれる音に中断された。
「入っていいわよ!」と呼びかければ、開いた扉の向こうから現れたのはもちろん、ラヴィとアンジュ。
アンジュはともかく、ここはベラの『顔』であるラヴィのお部屋でもあるんだから、ノックなんてしなくてもいいのに──なんて考えは、二人の表情を見たとたん、どこかへ飛んでいった。
「どうしたんだい、二人とも。そんなに、悲しそうにして? せっかく可愛らしい顔が台無しだよ?」
マヤの心配そうな声色に似合わないキザな言い回しはさておき──やけにそれが似合う仕草もさておき、その内容に間違いはない。
ラヴィもアンジュも、とっても悲しそう。
ベラの『顔』とベラのお友達の『顔』がそんな顔をしているだなんて──これは、一大事だわ! とってもとっても、大事件!
「ラヴィ! 一体、何があったの? エリーにお話したんでしょう?」
「えっと、それが……」
「……エリー、とても話せるような感じじゃなくって……ぜんぜん、元気がなかったんです」
アンジュの言葉に、ベラは思わず眉を顰める──ような気分になる。眉なんて見えないものね。
──あのエリーの元気がなかった?
いえ、ベラとエリーの接点なんて『お披露目』の日だけだから、ベラは、クロッケーの最中のあの無邪気な笑顔と天真爛漫な振る舞いしか知らないのだけれど──それしか知らないベラですら、あの子の元気がないだなんて、とてもじゃないけれど信じられない。
けど、お友達の『顔』のアンジュが、嘘をつくはずがないもの。無条件に信じるのが、『顔付き』のシャドーよね!
「それで……ラヴィ達、楽しくおしゃべりをして、元気づけようと思ったんですが、上手くいかなくって……どころか、お影様の話をすると、もっと悲しそうになってしまって」
「お影様の?」
流石ラヴィ!
流石ベラの『顔』!
やっぱり、みんなのことをよぉく見ているわね!
そのことをとっても誇らしく思いつつ、怪訝そうな声で首を傾げるマヤに、こっちが怪訝そうに首を傾げそうになる。
何を怪しむ必要があるのかしら。訝しむ必要があるのかしら。
そうと決まれば、やることはひとつじゃない!
「それなら──アリスのところに、直接話を聞きに行きましょう!」
目を丸くした三人──マヤの顔はわからないけれど──の視線を全身に浴びつつ、ベラは高らかにつづける。
「エリーがシャドーの話で悲しそうにするなら、エリーのシャドーに話を聞くのが一番に決まっているわ!」
「……なるほど。行きましょう、ということは……今からかい?」
「もちろん! これは、一刻も早く解決しなくっちゃいけない大事件よ! だって──『顔』がこんなに悲しそうにしていたら、ベラがしょんぼりしてるって思われちゃうもの! それじゃあ、どこにも行けないわ! ベラはいつだってシャドーとして完璧な振る舞いをしなくっちゃいけないんだから! 当然、『顔』も含めてね! だから、仕方がないから、ラヴィがアリスとお話をしてあげるの!」
「ふむ……」
何かを考えこむように、その手で顎の下を触れるマヤ。シャドーの身体はどこも真っ黒だから、輪郭が、境界線が曖昧で、どこまでが顔でどこからが手なのか、目を凝らしてもよくわからなくなるわね。
「ワタシ達も一緒に行こう──と、言いたいところなのだけれど……今日のところは、二人に任せてもいいかな? あまり大人数で行ってもアリスに迷惑だろうし、ワタシ達は部屋に戻るよ。いいかな、ベラ?」
その申し出は、ベラにとって、少しびっくりするものだった。
ベラとラヴィのことを助けてくれるぐらいお人好しなマヤのことだから、てっきり、「ワタシも、エリーにあの花のような笑顔が戻るよう、最大限協力するよ」とか言って、一緒に来るのかと思っていたから。
けれど、来ないなら来ないで全く問題ないわ!
完璧な『顔付き』のシャドーであるベラさえいれば、アリスにお話するぐらい朝飯前だもの! 朝食は既に目覚めてすぐにしっかりきっちり食べているけれどね!
「ええ、構わないわ! ベラがしっかり話を聞いてくるから、安心して待つといいわ! 部屋に戻って、ゆっくり二人の時間を楽しんでちょうだい!」
◇◇◇
丁寧すぎるあまり弱々しくさえ感じるノックの音で、強制的に、されどゆるやかに、思考が一時停止する。
一体、誰かしら? 来客の予定はないのだけれど──来客の予定があったのは、あの一回だけなのだけれど。
「どうぞ。入っていいわよ」
「お邪魔するわ、アリス!」
「……ベラ」
アリスの部屋を訪れたのは、同期のシャドーであるベラ──ベラトリクスと、その『顔』のラヴィだった。
「珍しいわね、ベラが来るなんて。どうかしたの?」
ベラと会うのは、『お披露目』以来。
ラヴィのほうは、目が『真っ黒に塗り潰されている』という話だったけれど……少なくとも、今はそうは見えない。
「話があるの! あがってもいいかしら?」
「もちろん、構わないわ。ちょっと待って、今エリーを……」
「呼ばなくていいわ!」
「え?」
エリーはよく、色んな生き人形の話をする──そのなかに、ラヴィの名前も、よく出てくる。
ラヴィの『顔』は今のベラにしてはなんだか少し悲しそうに見えるから、エリーも一緒にお話をすれば元気が出るんじゃないかしら、と、思ったのだけれど──だって、あの子の笑顔は、どんな人物の心だって照らすのだから。
なのに──止められてしまった。
「アリスにだけ話したいの。エリーのことについて」
「…………」
デジャヴって、こういうのを言うのよね?
「さっき、ラヴィとアンジュがエリーの部屋へ行ったのよ」
「! そうなの?」
ベラまでエリザベスみたいなことを言うの? と複雑な気持ちになりつつ、エリザベスともそうしたように、対面になるよう着席──した途端、ベラは話を切り出した。
早い。し、さっきからずっと驚かされっぱなしだ。
ラヴィとアンジュが、エリーの部屋に?
「そのとき、ラヴィから見て、エリーにあまり元気がなかったそうなの! 完璧なベラの『顔』であるラヴィの観察眼は完璧だから、間違いはないわ。アリスは、エリーの元気がないことに、ちゃんと気づいているの?」
「え……」
エリーに、元気がない?
あまりにも想定外の言葉に、上手く頭が働かなくなる。
最近はずっと、エリザベスに言われたことばかり考えていたから。
エリーが生き人形ではない、という言葉の意味。
それを、アリスにだけ教えた真意。
そうやって他のことに夢中で、自身の『顔』の変化に気づくことができなかった……なんて、主人失格にもほどがある。
……けれど……。
「……言われてみれば確かに、最近のエリーは、掃除が終わるとすぐに自分の部屋に戻っている気がするわ。会話も、以前より減っているかも。ぜんぶ、考え事をしているアリスを気づかっての事だと思っていたのだけれど……」
そう言うと、ちいさなため息が聞こえてきた。『顔』を見れば、少し困ったような表情で、息を吐いている。
「もしかすると、そうかもしれないわね? ほんとうにエリーは、考え事をするアリスに気を利かせて、部屋を出ていってくれたのかもしれないわ! けど──ラヴィ曰く、エリーは、シャドーの話になると、顔色がいっそう曇ったらしいの! 具体的な原因は、流石のベラにもわからないけれど──たぶん、アリスとエリーとアンジュが、エリザベスのところに行ったぐらいからじゃないかしら? なにか、心当たりはないの?」
「…………」
やっぱりその『顔』はラヴィ自身の感情に引きずられていたのね、と思いつつ、思考を巡らせる──までもなかった。
元気がない、と聞いてから、なんとなく嫌な予感はしていた。当たらなければいいな、と思いながら話を聞いていた。
エリーが、すぐに部屋に戻るようになったのは、きっと──アリスとエリザベスが、二人でお話をしたあの日から。
あの日の夜には、アリスもエリーの様子に違和感を覚えていたのに、気のせいということにして片付けてしまった。
気のせいなんかではなかったのだ。
あの日──エリーは、アリス達の話を聞いてしまったんだわ。
「……心当たりは、あるわ。けど……まだ、エリーには話せない」
『あの子は──生き人形ではないの。
エリーは、此処に来るはずじゃなかったのよ』
エリーはきっと、すごく傷ついている。
あんなの、自分の存在を否定されたも同然だもの。
もしかしたら、泣いているかもしれない。
それならアリスは、その涙を拭って、大丈夫よって抱きしめたい。
今すぐにでもそうしたい。
けど──それだけじゃ、ダメなの。
何が大丈夫なのか、説明できないから。
エリーのその悲しい思考を、打ち消してあげられない。
だけど──もうすぐ。
もうすぐ、アリスの中で、答えが見つかりそうなの。
その答えはきっと、エリーを要らない子だなんて言わせない。
ほんとうの意味で、エリーを照らすことができるはず。
だから──まだ、話せない。
ちゃんと、本当の希望だけを与えたいから。
「……そう。アリスのことだから、ちゃんとその時が来たら話すんでしょう? じゃあ、ベラにできるのはここまでだわ!」
そう言うと、ベラは勢いよく立ち上がった。
「ベラには、その時が来るのを待つことしかできないもの。待ってるあいだは、ベラがベラの手でベラの『顔』の悲しみを吹き飛ばすまでよね。それじゃあ、お邪魔したわ、アリス。ちゃあんとエリーに笑顔を戻すのよ!」
ビシッ、と、真っ黒な指をアリスの方へ鋭く向けてから──『顔』は、その突然の動きにびっくりしたのを隠しきれないながら、少し不安そうに笑みを浮かべていた──ベラは、くるりと踵を返した。
そんなベラとラヴィの背中に、アリスはそっと言葉をかける。
「ええ……ありがとうね、ベラ」
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𝒍𝒚𝒓𝒊𝒄𝒔
💎🎩みんなどっか行っちゃったよ
💎🥀零になっちゃってざまぁないね
💎信じてたいから声に出すのはやめた
🥀愛されたいのはどうして
🎩愛してたいのはどうして
🥀🎩飾りあって 分かちあっていた
💎私
🪞曖昧さ故にシンパシー
大胆不適なセンソリー
🎩どんまいどんまい大丈夫
笑わせてあげるから
🪞だから与え与えられて
消えないように此処に居なよ
🥀そしたら
「僕にもお返事くださいね」
𝑪𝒂𝒔𝒕
💎アリス(cv.りる)
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🥀ベラトリクス(cv.あかりん)
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🎩マヤ(cv.はいねこ)
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𝑻𝒂𝒈
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