【Such a Dream】
Glittering Stars
【Such a Dream】
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️ 【 Such a Dream 】
──そんな、夢を見た。
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少年は、とある組織の運営する研究施設で暮らしていた。
組織の目的は、世に幸福をもたらすこと。
そう、誰もにとっての理想郷、『アルカディア』を完成させることである。
秘密裏に進められていた研究はひとつの仮説に辿り着く。
『一部に大きな不幸を引き起こすことで、相対的に多くの人間に"幸せの実感"を生み出す』という仮説。
いわば、自己と他者とを比較することで自己を肯定する人間のあり方を、逆手に取った推論である。
──多数の幸せのためには、やはり、少数の不幸が不可欠であるのだ、と。
組織は計画の実行へと踏み切った。
手始めに情報機関と手を組み、「未成年の自殺」や「事故死」を、報道として大きく取り上げさせる。
少しずつ手を広げた組織は、「注目の集まる場での殺人」や、「名のある家の一家心中」、「自分達にとって都合の悪い次期当主を消す」環境の手配すら容易となった。
死傷者はほとんど手遅れの状態で、とある街、とある人物のもとへと搬送される。
技術と情報の発達したかの街でも救えなかった命たちは、より凄惨な出来事として、瞬く間に知らしめられた。
やがて進められたのは、「治療が不可能な、余命のある奇病ウイルスを振り撒く計画」。
この計画はある種の賭けであったが、組織直属の特殊病棟へ、研究データとして患者を収監することに成功した。
ここで、組織は新たな計画を立てる。
即ち、「不幸」そのものを一身に宿し、破壊と絶望をもたらす「魔王」を作り出すことだった。
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少年はひどく聡明で、美麗で、俊傑で、
弟にピアノを聴かせてやることが好きな、どこにでもいる少年だった。
気づけば家族からは引き離され、白い壁と知らない大人に囲まれて独り過ごす日々。
どこまでも聡い少年は、この組織が何をしようとしているのか、自分は何のために連れてこられたのか、幼いながらに理解していた。
そして、この施設にはひとつだけ、決して誰にも見つからない、隠し通路の出口があることも。
頭に埃を被り、体に蜘蛛の巣が絡みつくことすら厭わず。
古びた棺桶のごとく暗いそこを抜けて、少年は夜な夜な、麓の林まで空気を吸いに行った。
しかしながら、施設はかつての家からは遠く離れている。家族が人質に取られている可能性を考えれば、逃げ出すわけにもいかない。
その日も、朝日が昇る前に引き返そうとした少年の耳へと、啜り泣く声が聴こえてきた。
きしりと、枝を踏む音に驚いてか、泣き声の主は振り返る。
刹那。
血のような深紅と交わったのは、滲んだ夕陽色だった。
──『魔王』は、『勇者』と出会ったのだ。
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青年は、『理想郷』の名前を背負っていた。
そしてそんな彼の目の前で、彼にとっての『理想郷』は、今まさに崩れ落ちようとしている。
視界に広がる赤は、かつて彼が愛した色だった。
悲鳴のような、怒号のような、絶望の声のみが、ただ脳裏に刻みつけられる。
黒い煙は暴力的なまでに口内を焼き、喉を炙り、肺の奥を燻る。
潰れかけた腕も、裂けた傷すら熱に晒された脚も、構うことはできない。
ひたすらに、走って。
酸素を求めて。
熱を逃れて。
未だ煤に巻かれる目を開けば、
ただ瓦礫と遺灰の芥場となった、"なにか"、
もう村と呼べることもないその残骸のみが、残されていた。
嗚呼、煙が、目に沁みる。
酸素を取り込めない肺が、嗚咽感に震える。
もはやこれも、慟哭とすら呼べない"なにか"、なのだろう。
頭を掻き混ぜられるような、絶えず閃光と警鐘に殴りつけられるような感覚の中で、
赤い、赤い炎のみが、青年を見据えている。
……逃げてきた村の向こう側。
いっそう大きな炎の柱を立てていたのは、山頂に聳える、あの陰鬱な施設だった。
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──謀らずして、組織の夢見た『不幸』は完成した。
『魔王』となった少年が施設を破壊し、彼自身も把握していなかったその力の強大さに、隣接した村をまるまる焼き尽くしてしまうという、まさに『最悪の形』で。
『魔王』は、理解していた。
自分が、世界の不幸を受け持つ存在であるということを。
自分が、より不幸を溜め込んだ存在となれば、世界は『理想郷』への道を、進むことができるのだということを。
それが、『魔王』たる自分の『使命』であるということを。
『勇者』は、決意を固めていた。
そこに、自分の帰る『理想郷』はなかったから。
理不尽な不幸など降り掛かることのない、そんな『理想郷』を創ることができるのは、自分だけだったから。
それが『勇者』たる自分の、『使命』であると思ったから。
『勇者』は、知っていた。
魔法使いの"大切な人"は、とある奇病に感染している。
普段は陽気な少年は、その人の話となるとまるで、感情が抜け落ちたようになるのだ。
その背後に『魔王』の秘密が関わっていることを、『勇者』は知っていた。
僧侶の育った街は大きく、技術にも優れている。
それでも、救えない命は多かった。
ひしゃげた自殺体、抉られた致命傷、事故死体に、焼死体。
僧侶が『理想郷』を目指す理由を、『勇者』は知っていた。
真っ直ぐな剣士は、一度だけ折れたことがある。
幾年も、剣を握るためだけに鍛え抜かれた両手。
初めて握らされた剣で斬殺したのは、罪のない、年端もいかぬ次期当主であった。
消えることのないその血の錆を、『勇者』は知っていた。
『勇者』は、引き返すことができなかった。
それは『勇者』にとって"なによりも大切"な、『使命』なのだから。
いつの間にか。
そんな『使命』が、かつて少年だった『勇者』の全てになっていた。
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──これは、『約束』だ。
俺にとって。俺たちにとって。
なによりも大切な、『約束』。
澄み切った夜闇の中で幼い2人を照らすのは、空からの光だけでじゅうぶんだった。
膝を抱えていた小さな手はめいっぱいに伸ばされ、まっすぐに空を捉える。
「あの月に。誓おうぜ、『勇者様』」
すくり、隣りの少年は立ち上がる。
逆光で表情は伺えない。涼しい風が栗色を揺らした。
「ならば俺は、星に誓おう」
振り返って、にっ、と笑う。
そのあどけなさにつられて、もうひとりの口元にも、年相応の高揚が滲んだ。
いつか来る、幸せな世界を
俺たちが、自分の手で、創ろう
──きっと、どんなに大きくなっても、この想いは変わらないだろうと。
なんの根拠もない、そんな核心だけがあった。
だって、俺たちは"友達"なんだから。
これから先、ずっとずっと、
これまで友達のいなかった俺を突き動かすのは、
最初の"友達"と交わした、たったひとつの『約束』なんだ。
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誰もが、理想の世界について、
かつて、【そんな夢を見た】。
Glittering Stars!!
【 Such a Dream 】
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