Love∞Destiny
Sooty House - Girl in the mirror -
Love∞Destiny
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【 運命の愛だから止まらない 】
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「それじゃあ、失礼するわ」
ぱたん、と。
ミラの部屋のものと比べて、うんと大きく豪華な扉を閉じる。
──その手は、今にも震えだしそうだった。
というか、ほとんど震えている。上手にノブを回せたことも、奇跡と言っていいだろう──否、流石にそれは過言かもしれないけれど。
ともあれ、そんなふうに奇跡を起こしたミラは──
次の瞬間には、駆けだしていた。
はしたない振る舞いをしていることは、わかっている。ちゃんとわかっている。きちんと理解はしている。頭で理解している。
けれど、そうせずにはいられなかった。
だって、今──ミラは、独りだから。
ひとりぼっちだから。
隣に、誰もいないから。
足りない、足りない。
心にぽっかり穴が空いたような喪失感。
足場が小さく細くなって、ただ立つだけのことにすら恐怖を覚える。
あの子がいないと、歩けやしない。
生きた心地がしない。
不安で不安でしょうがなくって、おかしくなってしまいそう。
もう限界。こんなの、耐えられない。
早く、早く行きたい。
大好きな、あの子のところへ。
◇◇◇
「ミア!」
優雅とは程遠い、怒られてしまいそうなほど粗雑な手つきで、強く勢いよくドアを開ける。エリザベスの部屋のものよりもこじんまりとしたそれから、耐久度が下がった音がした。
「……おかえりなさい、ミラ様」
息が、安息が漏れる。
あぁ──ミアが、いる。
ミア。ミア。ミア。
よかった。ちゃんと、部屋にいてくれた。
いなくなったりなんてしてなかった。
そりゃ、いなくなっていたのはミラのほうなのだから、ミアがこの部屋にいるのは、部屋のお掃除をしてくれているのは、至極当然のことなのだけれど──当然のことなのに、なんだかとっても安心して。
ぎくしゃくしていたミラの身体が、ようやく正常に動きだした気がした。
硬直していた筋肉が、緊張が、溶けていく。解けていく。
凍った心が、甘く蕩けていく。
あぁ、やっと。
やっと──ミラになれた。
ミラとミアは、二人で一つ。一緒にいないと、意味がない。意味が見出せない。意味が生まれない。
ミアが隣にいないだけで、ミラはダメになってしまうの。
二人揃って、ようやく完全体。
けど──まだ、足りない。
「さぁミア、こっちへ来て。『顔』を見せて。ミラにだけ見せて、ミア?」
ミアの手から落ちた掃除道具が、床とぶつかって、耳障りな音をたてる。
ミラは、ミアの手首を握り、少し強引に手を引き、引っ張り、いつものソファへと歩き出した──歩く、と表現するには、一歩一歩の間隔が短すぎるかもしれないけれど。
「ミア」
いつも通り、互いのスカートがぐしゃぐしゃになる距離で腰を下ろし、世界で一番愛おしい響きを唱える。奏でる。そして、ミアの細い三つ編みに触れる。
ミラは、ミアの紅い髪が大好き。
だってこれって、ミラとミアを結んでくれた赤い糸みたいだもの。
ミラとミアが永遠に離れないための、離れたりなんてしないための赤い糸。
絶対に解れたり解けたりしないように、編んで、編んで、編み合わせて──ミラとミアは、ずーっと一緒にいるの。
『三つ』編みだから、一束余計かもしれないけれど──そんなの、気にする必要のない些事だわ。
だって、ミラとミア以外に、この世界へ入りこむことができる人物なんて、いないもの。
ミラとミアを繋ぐ介入者なんて、誰も。
「ミア、ミア」
次にミラは、この世で最も価値のある『顔』のほうへ両手を伸ばし──頬を、左右からから包みこんだ。
「ミア。あのね、ミア」
ミラの真っ黒な髪と、ミアの真っ赤な髪が。
ミラの真っ黒な肌と、ミアの真っ白な肌が。
黒と赤が、黒と白が──溶け合ってしまいそうな距離。
額をこつんと優しく重ねるように、ミラは顔を近づけた。
近すぎて、ミアの表情はわからない。
でも、視界が愛する空色に支配されて、これ以上なく安心する。
まばたきのひとつすら、焦がれるほどに愛おしい。愛おしくってしょうがない。
そこでミラは、焦ってしょうがなかった心に、焦がれることができる程度の落ち着きが戻ってきたことに気づき、息を吐いた。額どうし、眼球どうしの距離がほとんど零なのだから、当然唇の距離もほとんど零なわけで、つまりあと少しでキスしてしまいそうなロマンチックな距離なわけで、自然と、ミアの唇に息を吹きかけたことになる。
さて。
ハートの形が整ったなら、次は、話すことをまとめないと。
さっきの出来事を順序立てて説明するために、整理する。整頓する。足りない頭で、組み立てる。
こういうこと──頭を使うことは、ミアの役割なのだけれど……これから語るのは、ミラしか体験していないことだから、今はミラが考えるしかない。
「──あのね、ミア。ミラ、エリザベスに報告してきたわ。ミアが言ってくれたとおりに。……いいえ、嘘ね。ごめんなさい」
未熟な脳で作りあげた原稿は、一行目から間違えていた。
いけない。
つい、素晴らしきシャドー家のシャドーとして、立派に役目を果たしたかのように言ってしまった。
ちがうのよ、弁明させて。
決して、ミアに嘘をつきたかったわけじゃないの。
ただ……ミアに、嫌われたくなくて。
ミアが、どんなときもどんなミラも愛してくれるってことぐらいはわかっている。それは当然の前提。
けど、ミラにだって、不安になってしまうときだって──見栄を張りたくなってしまうときだってあるわよ。
きっとこれも、少しのあいだミアから離れてしまったがゆえの不安なんでしょうね。
やっぱり、独りは良くないわ。
でも、それでも──いくらイレギュラーな孤独が要因だとしても、ダメよね。
ミラは、ミアの全てを知り尽くしたいって言ってるのに──そしてそれはミアも同じなのに、ミラだけ偽りを語るなんて、あってはならないわ。
「ミアが言ったとおりに……ミアが、あの『お披露目』を終えたばかりの生き人形達が異分子かもしれない可能性を見出したってことを、ミラは、星つきとして、エリザベスに報告にいったの。それはほんとうよ。けど……ごめんなさい、ミア。報告を済ます前に、エリー達が来て……ミラは『おじい様と共にある棟』と『こどもたちの塔』をただ往復しただけになってしまったわ」
目前に広がるミアの目の色は、変わらない。
時折しばたくだけで、落胆した様子も、逆に感激したような様子もない。
変化はない。変わりはない。
それは、きっと──ありのままのミラを、愛してくれているから。
動くことしかできないミラも、一人じゃ動くことすらできないミラも、頭の足りないミラも──ぜんぶ、ミラをミラのまま、愛してくれているから。
ミラが少し不出来だったぐらいで、いまさら愛の形が変わったりなんてしないから。
そんなこと、わかっていたのに。
不安がる必要なんてないって、わかっていたのに。
「ミアがせっかく導いてくれたのに、失敗してしまったわ。ミアが考えて、ミラが動く。いつも通り、それを実行したはずなのに……。ねぇ、ミア。ミラは、どうすればよかったの?」
と──そんなふうに。
つい、いつもの癖で、問いかけの形をとってしまったけれど──ミラはもう、その答えを知っていた。
ミラは──さっきまで、単独行動をとっていたから。
独りだったから。
いくら足りない頭でも、ひとりぼっちであれば、すべてを委ねられる人がいなければ、どうしても動いてしまう──けれど、足りない頭でもわかるぐらい、足りない頭を使わなくても済むぐらい、答えは簡単だった。
「ねぇ、ミア。ミラ、思うのだけどね」
両頬に添えた手のひらはそのままに、そっと、ミアから少しだけ離れる。そうすることで、ミアの『顔』の全貌が、表情が、見えるようになる。
ミアは、微笑んでいた。
やさしく、何かを期待するように。
ミラの言葉を、ただただ待ってくれていた。
その事実に、心へ幸福が注がれて満たされていくのを感じながら、ミラは「やっぱり、」と続ける。
「やっぱりね、ミラとミアは、いつでも一緒にいないといけないと思うの。ミラ、どうしても自分では考えられないもの。動くのが得意なのはミラだけど、それでもずっと一緒にいないと、ミアがそばにいてくれないと、ミラは動けなくなっちゃう」
動く力だけじゃ、動けないの。
動くための力が、ミラにはないの。
けど、ミアにはあるでしょう?
ミアが正しい行動を教えてくれなきゃ、ミラは何にもできないの。
「ミアがいないと、ダメなのよ。ミラは、何にもできないのよ。ミラとミアは、二人で一つ。二人合わせて、完全になれる。そうでしょう?」
さっきミラは、単独行動をとったからその答えを知ったと言ったけれど──思ったけれど──それは、間違いかもしれない。
だってこれは、ミラがやっと見つけた答えなんかじゃない。そんなものではない。
これは、最初から決まっていた、たったひとつの運命。
そこへ帰結することが定められていたもの。
変えようのない、揺るぎない愛。
「だから──どんな場所も、一緒に行きましょう。どんな未来も、一緒に生きましょう。ね、ミア?」
今度は、本物の問いかけだった。
自問自答ではなく、ミアからの返事がほしくて投げた問い。
もちろん、ミアからの解答だって、決まりきっているのだけれど。
「はい。もちろんです、ミア様」
ほら。
ミアの『顔』が、綻んでいく。
愛おしげに、満足げに、蕩けるように、その笑みを深めていく。
「ミラ様のおっしゃる通りです。元より私は、ミラ様のおっしゃる通りに従うだけですよ、ミラ様」
あぁ──うれしい。
ハートが幸せでいっぱいいっぱいで、あふれてとりこぼしてしまいそう。
こぼれてしまった幸せに、全身が浸かってしまえそう。
ミラは、ハウスで一番幸せなシャドーかもしれないわ。
だって──今、ミラとミアは、同じ感情なのよ?
こんなにうれしいことってないじゃない!
自分でも笑ってしまうほど上機嫌になりながら、頬から手を離し、そして、ミアの身体をぎゅっと抱きしめた。
「大好きよ、ミア。ずっとそばにいてね? 私の、可愛い可愛いミア。──愛しているわ」
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𝒍𝒚𝒓𝒊𝒄𝒔
🎀you are my destiny, wanna be your everything
🎗don't stop my pure love, wanna be your only love
🎀eyes 見つめてる いつもいつも あなたのコト
🎗どんなコトでも 全部全部 知りたくて
🎀些細な表情も いつものクセも仕草も
🎗好きよ 大好き 私だけ見て
🎀🎗深紅のsweet heart 感じるでしょ?
🎀運命の愛だから止まらない
🎀🎗おはようから おやすみまで
🎗あなただけに捧げるの 永遠に
🎀you are my destiny, wanna be your everything
🎗don't stop my pure love, wanna be your only love
𝑪𝒂𝒔𝒕
🎀ミラ(cv.朔)
https://nana-music.com/users/2793950
🎗ミア(cv.小日向奏乃)
https://nana-music.com/users/5171643
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𝑻𝒂𝒈
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