儚くも永久のカナシ【番外編】
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儚くも永久のカナシ【番外編】
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西の空が茜色に染まる頃…九十九屋敷には珍しく穏やかな時間が流れていた。いつもならこの時間はお腹を空かせた面々が慌ただしく集まってくる頃なのだ。
だが今日は星を見ながら流しそうめんでまたまちしようということになりまだ皆ゆっくりと過ごしているのだ。
昼間は茹だるような暑さであったが先程の夕立が打ち水となりほどよい涼しさだ。
そよそよと優しい風が吹く縁側でうたたねをするつくも神が…
「んにゃ…むにゃ…」
「白杜、こんな所で寝ていては風邪をひきますよ。」
通りかかった織兎白杜をゆする。猫のようにくるりとまるまり寝ぼけているようだ。
夏とはいえ薄手のタオルケットくらいはかけなければさすがに身体が冷えてしまう。
しばらくして、白杜はゆっくりと身体を起こしめをこすった。
「ん…ごめんなさい、手間をかけたようね。」
「いえ、大丈夫です。」
これくらい別に…と乱れた白杜の髪を直そうとする織兎。
「織兎はなんというか、世話焼きなところがお母さん?みたいですわね。」
「…はあ。」
『お母さん』と言われても織兎にはピンとこないようだ。
それもそのはず、つくも神は人間のように親から生まれるわけではない。いや、強いて言うならば命となる強い想いの持ち主が親というべきか…
「人間は世話焼きで保護する存在をお母さんのようだと言うらしいけど…まあ私たちにはよくわかりませんわね。」
「誰かを気にかけること、それがつのって大きくなっていつかそれは『愛』となる。『愛情』というものはそういうものだと…私の持ち主だった方がおっしゃっていましたわ。」
「…つまりつくも神もいつかは皆お母さんのように…?」
「…なんだか違う気もしますが…。」
『愛』
『親愛』、『恋情の愛』、『家族愛』
『愛する』という行為はそしてその気持ちは簡単なようで複雑だ。
「…私がお姉様をお慕いすることは『愛』なのですかね。」
織兎が思い浮かべたのは美しい金色の髪と優しい瞳。ずっとずっと前から。それこそこの姿になる前から一緒にいた存在。
また会いたい、話したい、お護りしたい、そう願って願って、願い続けて長い年月の末ここにいる。
だがつくも神として生まれた織兎自身の『親愛』は本当に自身から生まれた気持ちなのか?
持ち主が自分達を大切にしてくれていたその情が自分に移っただけなのでは?
ただもう一度会いたいという自分のエゴであり執着に近い歪んだ何かなのでは?
『お慕いしております』という言葉の裏にはいつもどこか不安があった。その不安を塗り潰すようにさらに深く彼の者を考える。
人に近くも人ならざる者『つくも神』だからこその『甘美な歪み』に胸は満たされていくのだ。
「…その気持ちが誰のものであったとしても、誰かを愛すという行為を形だけでもできるのは良いことではなくて?」
織兎の言葉を聞きしばらく沈黙していた白杜がボソッと呟く。
白杜には記憶がない。自分自身を形づくる想いの主である誰かのことも知らない。
自分は何者で、何が大切で、何を愛していたのか。いや、自分自身のことすらわからないくせに『愛』の元となる気持ちなどわかるのか。愛された記憶も、その感情も知らないのに。
愛する、が甘美なものか胸を焼く苦しいものか想像もできないのに。
織兎の話を聞き、正直愛に苦しむという気持ちを理解できなかった。
ただ、愛するという行為はきっと良いものだ。それしかわからずこんな形だけの言葉しか出てこなかった。
(ああ…私は欠けている。愛に苦しむことはなくても、理解できないということは意外と堪えるのね…)
大切なものが欠け、歪んだ自分がひどく醜く感じた。
二人とも以前はこんなことを感じることはなかったのに、と呟いた。
この場所にやってきて様々なものがつのってきたからなのだろうか。
ただ、その正体はわからない。まだ、きっと、まだ…
いつの間にか辺りは暗くなり空には天の川がきらめいていた。
二人は仲間たちに呼ばれて我を取り戻す。
「…いきましょうか。」「ええ。」
気分を切り替えようと二人は足早に庭へと向かってゆく。
二人は気づいていただろうか。
金と銀の流星が二人の頭上に降り注ぐように流れたことを。
その星々はきっと…
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