終わらない時間を
DECO*27
終わらない時間を
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作ったら終わりではないのが武器というものである。その構造が複雑であれば尚更…長きの苦難を乗り越え辿り着いた親友との夢、それを丁寧にバラし、掃除をし、歪みを整え、油を指し…
「…うわぁ…たった一つの銃からこんなにパーツが…パズル苦手な私にはもう無理かも…」
そう言いながら顔はどこか楽しげだ。いつもなら一人の武器屋の工房、じっくり孤独に依代銃をメンテナンスするところだが、今日は珍しい客が来た。
「ふん…面白いか?今日は店休みなのになぁ」
「私も休みなんですよ!遊びに来たの…お邪魔でした?」
シノはハッとして視線をジーグに向けた。白のお下げが傾げた首と共にユルリと揺れる。ジーグは、いや…と答えに詰まる。
「友人と遊ぶとか…そういや故郷から出てからしてなかったなって。それに遊ぶでも、出掛けるでもなく私の好きな様に過ごしていいなんて」
変な奴だ…と口走りそうになり、グッと口を閉じた。いつものように部屋の掃除や在庫の整理、材料の確認を終えて依代銃を弄っている。シノはそれを手伝いながらも横でジーグの様子を見ているのだ。…なんのお構いも出来てない…流石のジーグも居心地が悪くなってきた。後は組み上げるだけの依代銃のパーツがまだかまだかとジーグの前に並んでいる。
「え?あぁ…お出かけした方が良かったですか!?私、故郷の友人の家に遊びに行っては家の手伝いをしながらおしゃべりしてたから、これが普通だと思ってました。武器屋の手伝いなんて初めてで、私すごく楽しいです!」
そう言ってまた依代銃のパーツへと目線を落とした。
「ものづくりって、作ったら終わりだと思ってました…もう立派な武器として使えるのに、ジーグさん、メンテナンスしながらどんどん改良してますよね?」
「え?」
「独り言。ここはもっと削った方が扱いやすいとか、南の鉱山の鉄の方が相性いいかも…とか!普段より沢山ジーグさんのおしゃべり聞けたかも」
流石は理事会で評価を受けた新人、観察眼に舌を巻く。そして何より、そんなに喋っていたのかとジーグは顔を赤らめた。バツが悪そうなジーグを他所にシノは続ける。
「終わらない仕事…って言うと大変そうだけど、少し羨ましいです。私達の仕事は続けて着手するものもあるけれど、解決した相談とか人気が無くなったイベントの解体とか…理事会が手放した仕事は終わっちゃうんです。そんな大きな話じゃなくても…私が書いた書類も、紙の束になって捨てられて終わっちゃう…ちょっと虚しくなる事もあるんですよね」
シノは少し影のある顔で笑った。
「まぁ、仕事の形はそれぞれですしね!終わってホッとする事のが多いんですけど」
ジーグはシノの話を聞き終えると、「少し休もうか」とキッチンへ向かい、世界樹のお茶を持って戻って来た。
「今日は手伝いが居てくれたお陰で時間が余りそうだ。…まだものを弄りたいんだよなぁ…」
そう言ってシノに目線を送った後にその目線をゆっくりとカバンに向けた。
「終わらない仕事…か。あいつにとって、シノと一緒にいる限り、ずっとずっと文字を書いて、資料の為に魔法を使い続けるんだ。シノにとっては一つ一つ終わっていく仕事かもしれないが…」
ジーグは立ち上がるとシノのカバンにつけられたペンホルダーからペンを取り出した。
「こいつにとっては、明日も明後日もシノの為に線を描いていく。シノの髪飾りからお前の考えを読み取りながらこいつは働いていくんだ」
そういうと依代銃のパーツを丁寧に退け、シノのペンを解体しだした。美しい装飾の下に顕になる魔導の芯材や星の砂、呪詛の模様…
「あった」
ジーグは心臓を取り出すかのように、恐る恐るペンの中心からインクを取り出した。液体のような、煙のような…不思議な畝りをする漆黒がキラキラと小瓶の中に少しだけ詰まっている。
「こんな複雑な構造じゃ自分でインク変えられないな。しかももう中身も減ってる。丁度いい、インクの材料も思った通りだ。…少し待ってろ」
またジーグは1人の世界へ没頭し始めた。…ここの構造は要らないな…ここにパッチをつけたら、よし!簡単に外せるようになったぞ…ジーグの独り言が続く。やがてペンは少し装飾が変化したが、元の形に組み上げられた。
「筆の根元を摘んで、押し込みながら捻ってみてくれ」
シノは言われるまま捻るとポロリとペン先が取れた。ペン先にはあのインクの小瓶がくっついている。
「インク。ある分かき集めてきたから使ってくれ」
シノに赤や青、黄色に緑と色とりどりの小瓶が入った小箱を手渡す。
「色ペンとして使えるのは勿論だが、インクが魔導の芯となって、魔法を強化したり精度を上げたりしてくれる。用途に合わせてインクを変えてみてくれ」
シノを見詰めているかのように、ペンはキラキラとシノに向けて輝きを放っている。…そうか、私だってジーグさんの依代銃に負けない相棒と、ずっと一緒に仕事をしてきたんだ。終わらない、相棒との時間…
「ありがとうございます!!嬉しい…!明日は色んな色で書類書いてみようかな!」
「いや、それは上司に怒られるんじゃないか…?」
喜びに興奮した自分へ冷静なツッコミ。今度はシノが顔を赤らめた。
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ペンのインクが増えました
ジーグは水のマナを手に入れた
シノは火のマナを手に入れた
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