小熊と蜂蜜色の石
JUDY AND MARY
小熊と蜂蜜色の石
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「どーしよー?うーん…武器かぁ…考えたこと無かったなぁー」
人差し指を顎に当てながら、目はキョロキョロ。その姿はさながら森のくまさんと言ったところか。あちらこちら煤で黒く汚れた部屋にギラギラと物騒な光を放つ武器の山…この風景に全く溶け込んでいないファンシーくまさん…ジーグは頭を掻き出した。
「お嬢ちゃんに武器なんて扱えんのかい?そもそも、武器なんて使ったことないように見えるが?」
「えへへ、バレましたかー」
両手で口を抑えてクスクス笑う。その姿の可愛らしさと言ったら…こんな奴に武器だって?オモチャを買いに来たわけじゃないんだぞ?…全く、付き合ってられるか。ジーグは不機嫌な顔で背を向けると、昨日鉱山から仕入れた鉄鉱石が詰め込まれた木箱をズルズルと炉へと引きずる。重さは言うまでもない…ジーグから苦悶に満ちた掛け声が盛れだしていた。クソ!あと少し…と思った途端、木箱はなんと宙に浮き出した。驚いて木箱を見ると、なんとあの子グマが笑顔で持ち上げているではないか!
「わぁ!重ーい!!やっぱり蜂蜜とは違うんだなぁ!…ねぇ、トカゲの武器屋さん!これどこに運ぶの?」
自分ですら1人では持ち上げられない木箱を易々と持ち上げ笑顔で自分に問いかける客…ジーグは呆気に取られて「そこに…」と抜けた声で指を指すのでいっぱいだった。
ドスン!!
ホコリと煤が爆煙の様に黒々と舞い上がった。汚れた手と服をパンパン叩いてまた客は武器の元へ戻って行き、「どーしよー?」と唸りながら眺めだした。
「…あ、アンタ…なんて言うんだい?」
「あは、いけなーい!自己紹介してなかった!…普段は世界樹の森で蜂のお世話をしてる、蜂蜜屋のミルクハニーですっ」
確か毎日店が開いている商店街の中で、普段は閉まっている小屋があったな…ジーグは思い出した。キリエの蜜を供給してる業者はコイツだったのか…
「…って、あの世界樹の森で暮らしてるのか!?なのに武器を持ったことがないなんて…お前、なんで生きてられるんだ!?」
「大変ですよねー!魔族もいるし魔獣や凶暴な動物もいるし!いつもは手に持っている道具で追い返したりしてたけど…この前オーガスを箒で殴ったら箒壊れちゃって…はぁ、お気に入りの可愛い箒だったのになぁ…」
…なんなんだコイツは!野良の動物や虫を追い返すような口ぶりで、魔獣を追い返してやがる。さっきの馬鹿力と言い…武器を使った事がないのは、武器に頼らずともこいつ自身が強いからなのか…!?ジーグは恐れと好奇心の入り交じった目でミルクハニーを見詰めたが、ミルクハニーはそんな目線を気にもせず武器を手に取った。
「…わぁ!カワイー!!ちっちゃな弓矢!」
彼女が手に取ったのは小動物獣人や小型亜人のために作られた弓矢だった。力が弱くても威力が出るように、シルフの呪詛と魔力の籠った宝石や神獣の羽などが飾られとても華美で愛らしい武器だ…しかし
「わー!触るな!!!」
べキッ!!あくまで力のない種族のための武器で、ヤドリギで作られているため人間でもへし折る事が出来る。ましてクマの獣人のミルクハニーでは扱えるはずもなかった。
「きゃーーー!」
アワアワと震えるミルクハニー。折れた部分をくっつけようとするが…メキメキ!弓が悲鳴を上げる。
「わー!!もういい!修理は私がやるから!!そのまま!そのまま静かに渡してくれ!そうだ…そーっと…そーっと!!」
慌てたクマとトカゲが小さな小さな弓矢を震える手で受け渡す姿はなんとも滑稽だった。…やれやれ、普段は静かな武器屋がミルクハニーが来た事でドタバタ騒ぎだ。ひたすらに武器を壊した事を謝り続けるミルクハニーを見ながら、ジーグはふふっと笑った。
「そもそも!武器は素人の見立てで装備したって意味がないんだ!力が発揮できない上に、雑に扱って最悪すぐ壊れる…武器は安いもんじゃない。ここはしっかり!私が見てやるから」
そういうとジーグはあらゆる武器をガシャガシャと音を立てながら集めだし、ミルクハニーに一通り扱わせた。…以前もこんな事したなぁ…ジーグは恋人のヤミィがヘロヘロになりながら武器を振り回していたのを思い出した。…懐かしい。こうやって個人の適性を探るのも、武器を作るのと同じぐらい楽しいな…
「…ふぅ!こんなかんじですかー?武器屋さん」
…ただ、前と違うのはどれだけやらせても弱音を吐かないところか…と思うと、うっかり笑ってしまった。
「?なんか変でしたー?やっぱり剣は難しいのかなぁ…」
「あぁ、いやいや。悪ぃ、思い出し笑いだ。確かに武器なしで森に住んでいただけはあるな。センスあるぜ?…でもせっかくなら、その力を利用しない手はないな…」
そういうと、大槌の置かれた場所へ歩き出し、如何にも重そうで無骨なハンマーを物色し始めるジーグ。ミルクハニーはジーグの背中からヒョコリと顔を出して武器を見たが…どれもゴツゴツしてて可愛くない…
「…あー…えっとぉ…弓とかダメでした?魔法の杖も相性いいかなー?なんて!ほら!あのお星様がついてるあれとか!可愛…じゃなかった、私にピッタリの武器かななんて!」
「あれは神官専用だ。お前には使えない…ほれ」
渡されたハンマーはやっぱりごつくて、鉄の色しかなくて…可愛くない。
「…リボンつけたら可愛くなる…かなぁ…」
残念そうに呟いた。あまりに気落ちした姿を見て、ジーグははたと何かを思い出した。
「珍しい石が手に入って、あまりの大きさに作ってみたんだが…使ってみるか?」
そういうとハンマーを持ったミルクハニーを置いて、工房へと消えた。ミルクハニーはポカンとした顔で待っていたが、しばらくしてその顔はキラキラと輝き出した。
「…蜂蜜みたい!!」
黒い木の柄が支えるのは、驚く程に大きな琥珀。母岩も付いていてゴツゴツとはしているが、トロリとした飴色の中に混合物が星のようにキラキラと光を放っている。よく見ると、知らない花が琥珀の中で咲いている…
「良質で大きさも一級。太古の植物を飲み込んだ琥珀をたまたま手に入れたんだ。加工しようと思ったんだが…あまりに立派すぎて砕くのが惜しくなってな。そのままハンマーにしたんだ。熱に弱い琥珀だから鉄は使わず、世界一硬いリグナムの木と併せた…少し待ってろ…」
そういうと、宝石や羽、角や光る糸で作られた紐を取り出すと、ハンマーに取り付けた。大きな琥珀でなければ、まるで魔法杖かと思う程、石や角などで飾られた神秘的で愛らしい姿となった。
「琥珀と太古の植物の魔力がどれ程か分からないが…これだけの護りを付ければ上手く使えると思う…ただ、これは相当値が張るぞ…?」
そんなジーグの脅しなど耳に入って居ないようだ。ミルクハニーは即決でハンマーを買い、意気揚々と店を後にした。
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大きな琥珀のハンマーを購入しました
ジーグは土のマナを手に入れた
ミルクハニーは土のマナを手に入れた
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