小夜啼鳥恋詩
Sooty House - Girl in the mirror -
小夜啼鳥恋詩
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【 籠のなか閉じこめて? 】
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「エリー」
「はい!」
今日は、ひさびさにアリス様にお茶に誘っていただきました。
自分がピッカピカにしたお部屋で、主人好みの紅茶を淹れ、大好きなアリス様の用意してくださった大好きなパンと共にそれを飲むというのは、非常に幸せなことです。エリーは、生き人形として生きるなかで、この時間がいちばん幸福だと感じます。
「もうすぐ『お披露目』ね」
「『お披露目』……」
「そうよ。エリーは『お披露目』のこと、どのくらい知っているのかしら?」
『お披露目』。
シャドー家に仕えるにあたっての最低限の知識として部屋に貼られている紙の中に、『お披露目』の情報も記載されていた気がします。詳しい情報は咄嗟に思い出せませんが……。
「……すみません。お影様と生き人形の適性を見る大事な大事な儀式、ということしか……」
「いいえ、それでじゅうぶんだわ」
正直に答えると、アリス様はふっと優しく微笑んで微笑んでくださったように見えました。
それだけで、心にお花が咲いたようにぽかぽかした気分になって、自然とエリーの口角も上がります。
「もっと言えば、シャドー家に有用な素材かどうかも見られるみたい。それが終わって初めて、アリス達シャドーは『顔付き』に──つまり、成人になれるのよ」
「『顔付き』……」
つまり、『お披露目』でアリス様とエリーの適性が悪く、有用と判断されなければ──どうなってしまうのでしょう。
「アリス様。『お披露目』って……上手くいかないことも、あるんでしょうか」
「……エリー、そんな顔しないで」
あまりにも不安そうな表情をしてしまっていたのでしょうか。
アリス様は、少し困ったように、心配そうに見つめてくださいます。
「エリーとアリスなら大丈夫。だって、エリーはこんなにアリス好みの紅茶を淹れてくれるんだもの。それに、言ったでしょう? あなたの笑顔は、たくさんの人を照らすの。そんな素敵なあなたが、『お披露目』で失敗するはずないわ。……ね?」
「アリス様……」
アリス様はやっぱり、すごいです。
アリス様が言葉を紡ぐたびに、エリーの心は、どんどんどんどん、ふわふわとやわらかくなって、ぽかぽかとあたたかくなって、きらきらと輝いて──不安が、ぜーんぶどこかへ飛んでいってしまいました。
お陰様で、エリーは心の底から笑うことができます!
「はいっ、そうですね! 困らせてしまってすみません」
「いいのよ。アリスも不安だから、おあいこ。けど、エリーはほんとうに、アリスの『顔』として振る舞ってくれれば、それで大丈夫だから。『お披露目』で何をするかは誰にもわからなくて、対策は練れないけれど……でも、そうね。一緒にお勉強でもする?」
「……! はいっ、ぜひ!」
アリス様はとっても素敵な方です。このような方がきっと、将来、シャドー家のお役に立つのだと思います。
そのためにも、エリーはアリス様のために、アリス様が素敵な方だとわかっていただけるように、精いっぱい『顔』としての役目を果たさなければ!
◇◇◇
今日は、『お披露目』当日です!
キラキラのおひさま! 澄みわたる青空!
まるで、外の世界がエリー達を応援しているみたいです!
「エリー、此処に座って。お化粧をしましょう」
「はい!」
いつもの黒いリボンと浅緑色のドレスを身に纏ったアリス様に呼ばれて、エリーはアリス様の真正面に座ります。
白い手袋をしたアリス様が、エリーの顔に、丁寧に丁寧に彩りを施していきます──いいえ、ちがいますね。
アリス様が飾りつけているのは、アリス様自身の『顔』です。
自分の『顔』を、鏡を見て仕立てあげているのです。
それは至極当然で、当たり前の事象でした。
「よし、できた。……うん。綺麗よ、エリー」
「ということは、アリス様もお綺麗ですね!」
「もう……」
にぱーっと笑ってみせると、アリス様は照れたように立ち上がりました。倣って腰を上げると、「あぁ、エリーはまだそのままで」と言われてしまいます。主人を無視して椅子でくつろぐなんて……でもアリス様のご命令ですし……?
などと少し困っているあいだに、アリス様は戻ってきました。
手に持っているのは──黒い、ヴェール?
「その黒いのを被るんですか?」
「そうよ。まだ『お披露目』前だから、隠していくの。ごめんなさいね、我慢させてしまって」
「このぐらい大丈夫ですよ!」
それを被ると、たしかに世界全体に薄い影がかかったように視界は暗くなりました。が、布が薄いので、生活に支障はなさそうです。
「それじゃあ、行きましょうか」
「はい!」
やってきたのは、アリス様の部屋より少しだけ狭い空間。
集まったのは、エリー達を含めて四対のお陰様と生き人形です。うち三対は──エリー達も含めて三対の生き人形のほうは、エリーと同じように黒い布を被り、いつものエプロン部分は取り外した紺色のワンピースのみを着用しています。どのお影様も生き人形もエリー達より大きくて、なんだか小人さんになった気分です。
しかし、この空間で何よりも目を引くのは、檻のように道を塞ぐ格子でした。
木でできているのでしょうか? 先に続く長い廊下の立ち入りを禁ずるように、茶色い格子が端から端まで設置されているのです。
その前に立っていた一対のお影様と生き人形の生き人形のほうが、何かの合図みたいに手を動かします──って、あれ?
「──どうも、初めまして。ミラはミラよ。星つきで、あなた達の上の世代にあたるわ」
その生き人形は、なんと、外の掃除でエリー達の班の班長のミアでした! ミアのお影様は、ミラ様とおっしゃるんですね。
スカート部分のプリーツと胸元の宝石、腰のふたつのリボンが目立つ華やかなドレスのミラ様は、所作は丁寧で上品ではあるものの──声は、不機嫌そのものでした。
そして、隣に立っているミアはというと──ミラ様と全く同じ動きをしつつ、その『顔』はこちらを見ることなく目を逸らし、嫌そうに唇を尖らしています。あんなに無表情だったミアからは想像できない、とても感情的な愛らしい表情です。
ミア、すごい! これが星つきというものなのでしょうか? それとも、生き人形としては当然の振る舞い?
どちらにせよ、エリーもあんな風になれるように頑張らないと!
「今回、あなた達を〝『お披露目』の間〟まで案内するわ。〝『お披露目』の間〟は……、──こっちよ」
「……?」
先ほども、そうだったんですが──どうやら、ミラ様が何かをされる前に、ミアが少し先に次の行動を起こしているようです。ミラ様も、それを待っているような?
生き人形はあくまで『顔』であり、意志なんて持ってはいないのに──ミラ様が思うがままに動けばいいはずなのに、どうしたのでしょう?
首を傾げているあいだに、いつのまにか行く手を阻む格子は取り除かれていました。その先には、長い廊下が、隠れることなく姿を露わにしています。
ミラ様とミアが先導して、その先を、迷いなく歩みはじめました。
「──ねぇ、ひとつ聞きたいんだけど!」
そう発したのは、一人のお影様でした──落ち着いた赤茶色のドレスと、それと同じ色のリボンでふたつに結えられた髪が、うさぎさんみたいで可愛いです。……うさぎさん?
「──何かしら?」
「それ!」
またミアが合図をするのを待ってから反応したミラ様に、うさぎさんのお影様は大きな声で言います。小動物のようなびくびくと怯える態度とはまったくの逆の、どこか怒ったように自信満々に堂々とした振る舞いです。
「どうしていちいち『顔』のやることを待つの? 『顔』は『顔』でしかないんでしょ?」
「ミラとミアは特別なの」
責めるようによく響く声で発された問いは、変わらず不機嫌そうな声で端的に返されました。背中を向けられているので、その『顔』は見えません──いえ、撤回します。
ミラ様とミアは立ち止まり、こちらを向きました。
「ミラとミアは、二人で一つなの。そうして初めて完璧になるの。ミラは一人じゃ不完全だけど、ミアはミラに正しい行動を教えてくれるわ。ねぇ、ミア?」
「……はい」
振り返ったミラ様とミアは、両手を繋いで、うっとりとした様子でこちらを見ていました。恍惚の対象はもちろん、お互いです。ミアは、その『顔』は、幸せそうに蕩けています。
お影様のほうからあんなに頼りにされるなんて……ますますミアへの尊敬の気持ちが膨れあがってしょうがありません。エリーも、あんな風になれるでしょうか?
「……これで満足?」
「……え、えぇ」
ツンツンとした調子で話されていたお影様でしたが、ミラ様の堂々たる語りに気圧されてしまったのか、少し戸惑ったように頷きます。
それに満足したのはミラ様のほうのようで、スッと『顔』をまた少し嫌そうなふくれつらにし、背中を向けて歩みを進めました。
「──着いたわ」
ミラ様よりも先にミアが足を止めたそこには、大きな大きな扉がありました。
すごく大きいです。エリーが首が痛くなるぐらい見上げないといけないほど背の高い他の三対すら、首が痛くなるぐらい見上げています。
その大きな大きな扉が開かれた先に広がっていたのは──パーティ会場のような場所でした。
広さは、アリス様のお部屋みっつぶんほどでしょうか。ソファや大きなテーブル、その上にはお菓子、奥の高くなっているところにはピアノ──と、これからゆっくりとティーパーティーでも始まりそうな空間です。
……あれ?
「……ちょっと、お披露目っていうから誰かいるかと思ったのに、誰もいないじゃない!」
うさぎさんのお影様の言う通りでした。
たくさんの顔付きのみなさんにエリー達の相性を披露するから『お披露目』だと思っていたのに……この会場には、誰の姿もありませんでした。
「──生き人形はもう黒い布をとっていいわ。会話も自由よ」
ミラ様に言われたとおり──ミアの合図で声を出したミラ様に言われたとおり、エリー達生き人形は、黒い布を取ります。
そうそて露わになった生き人形の顔ぶれは──やっぱり!
エリー以外の生き人形は、ラヴィとアンジュでした!
先ほどから何度か発言されているうさぎさんのような髪型のお影様は、やはりラヴィのお影様でした。
ということは、あの方が話に聞いていたベラトリクス様なのですね! そして、アンジュの隣にいるのがマヤ様!
二人と一緒に『お披露目』なんて、とってもとっても嬉しいです! 内容がわからなくて不安だったけど、途端に元気が出てきました!
「──それじゃあ、ミラ達はこれで失礼するわ。あなた達は、試験官が来るまで此処で待っていなさい」
そう言うと、ミラ様とミアは丁寧に一礼をして、部屋を出ていってしまいました。……え?
残されたのは、三対のお影様と生き人形のみ。
少しだけ引っこんだはずの不安が、また顔を出します。
ほ──放置されてしまいましたよ!?
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𝒍𝒚𝒓𝒊𝒄𝒔
🎀ちょっとだけ風鳴る夜には あなたの心が知りたい
🎗️あきらめられると思った
それができないこと やっと気づいた時に
🎀私正直に生きようって決めたのよ
🎗️いつも
追いかけて
寄りそって
🎀ときめきながら…
大好きな気持ちだけあげたいの
いつも!
🎀🎗消さないでこのメロディー
物語のように幸せになれる日がくる
願うせつないこころで
籠のなか閉じこめて?
🎗️あなただけのために
🎀🎗歌いたいの今のメロディー
🎀それは恋の詩
𝑪𝒂𝒔𝒕
🎀ミラ(cv.朔)
https://nana-music.com/users/2793950
🎗ミア(cv.小日向奏乃)
https://nana-music.com/users/5171643
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𝒄𝒓𝒆𝒅𝒊𝒕
𝑖𝑛𝑠𝑡
前向きな学院生様
https://nana-music.com/sounds/055005b0
𝑻𝒂𝒈
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