地獄の沙汰も君次第
ALL CAST
地獄の沙汰も君次第
- 38
- 3
- 0
「はぁーあ、もう閉店かぁ」
「次の開店はいつになるんでしょうね?」
洗い物と店内清掃をしながら、従業員各位は他愛もないおしゃべりに花を咲かせる。美味しく食べてもらって、きちんと逝くべき場所へと送ってやった。仕事が終わった開放感と、次の仕事への期間がまた開くことへの退屈さが一緒になって、どうにも手の動きは良くなかった。
「ほらほら、いつまでも開けておけないんだからテキパキ片付けるよ」
「私達も早く帰らないと大変ですからねぇ」
働き者の何人かは既に自分の担当する領分を終えて、あちこちに手を貸している。黄泉比良坂のその袂。現世とあの世の境の地。あの世のものである彼らがそこに長く留まる事は、禁止されているし厄介な方向に事が進みかねない。役目が終わったら、それぞれ地獄の統轄地域に帰らなければならないのだ。
「ま、いつもの業務よりこっちの方が楽しいのは事実だけどねっ」
「仕入れの暇がないから、アタシは大変」
「俺は今回"兄さん"たちがいたから楽だったけどなー」
気まぐれで呼ばれて帰っていった同僚たちを思って彼は笑う。時と場合によっては早く帰れることもあれば、今回のように生に執着しているお客様を引きずりこむにはコースの全員が協力しなくてはならない。おかげで、彼女は現世の時間で言うところの前日から準備で忙しく、カフェカウンターを拭きがてら突っ伏していた。
「我々の仕事は、少し異質ですから。お疲れでしょうけど、最後のひと頑張りですよ」
「げんみつには、あとしはんときです。とじるまえにおわらせましょう」
店の奥に広がる奈落は徐々に小さくなってきている。あれが閉じればこの境界をさまようこととなり、それは獄中での償いよりも辛いことだ。突如突きつけられた制限時間に店内は騒然とし、ドタバタと片付けが進められる。そんな様子を見て、壮年の男性は楽しそうに笑うのだった。
#洋食屋さかもと
Comment
No Comments Yet.