名前のない怪物
₊*̥𝙰𝚜𝚝𝚛𝚊𝚎𝚊☪︎₊*˚
名前のない怪物
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__𝕎𝕚𝕤𝕙 𝕥𝕙𝕖 𝕡𝕣𝕚𝕔𝕖 𝕠𝕗 𝕞𝕒𝕝𝕚𝕔𝕚𝕠𝕦𝕤 𝕚𝕟𝕥𝕖𝕟𝕥.✩₊*˚
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柊葉が現実世界で刹那に呼び出されたのは、ある夜のことだった。
届いたのは、時間と場所を告げる簡素なメッセージ文。その言葉に逆らう権限などない。
幸いなことに、両親は留守だった。きっと刹那が何らかの手段で手を回してくれたのだろう。
柊葉の体調は、悪化の一途を辿っていたけれど。身体を庇うようにゆっくりと身を起こすと、先程よりは良くなっているような気がした。
朝起きた瞬間から、頭上に錘を縛り付けられているかのような頭痛がして、吐き気と眩暈が酷くて。
それでも、そんな素振りを見せずに、いつも通り「優等生の柊葉」として振舞っていた。
きっとそんな生活が、余計に体調を悪化させていたのだろう。
星巫女の体調不良は、主に心因性のものだそうだ。
身体に過度のストレスがかかると、頭痛や眩暈などの症状が目立って表れるようになる。
刹那に呼び出されたから、体調が先程より良くなったのだろうか。そんなことを考えて可笑しくなった。
柊葉にとっての刹那は、今まで柊葉の絶対的な正義だった両親から、解放してくれるような存在だ。
今までの柊葉は、両親から逃れたくて堪らなくて、それでも逃げ出す方法が無くて、必死に生きていたから。
だから、そんな柊葉を救い出してくれた、刹那という存在に。依存しかけているのかもしれない。
柊葉は弱いから、一人では生きられない。
昔は持っていたのかもしれない、一人で生きる方法は。
親に敷かれたルートをなぞっているうちに、いつの間にか失ってしまっていた。
柊葉の本当の心も、笑顔も、全て。自分を偽り始めた日に、失ってしまったのだ。
中央政府の区画内にある刹那の家は、柊葉の家からそう遠くない。
柊葉の元へ送られた迎えの車に乗り、彼女の家を訪れる。
無駄を嫌う刹那のことだ、話は予め通しておいたのだろう。彼女の家に着くなり、部屋へと通された。
刹那の部屋に招かれたのは、これで数度目だ。
机上に置かれた大きなモニター画面には、目まぐるしく変わる数値が映し出されている。刹那が振り返り、普段通りの綺麗な微笑を浮かべた。
それが経験則ではなく、計算のもとに作られたものであることを、柊葉は知っている。
「夜遅くに呼び出してすまない」
全く悪びれた様子もなく、刹那はそう告げた。
「どうしても、今日話しておきたいことがあるんだ」
わざわざ呼び出して話をするくらいだ、余程重要なことなのだろう。
また新しい死亡者が出たのか、と身構える。
灯莉が死んだ日の記憶は、まだ風化することなく。生々しい傷跡として、柊葉の中に残っている。
そんな柊葉の予想に反して。
続けられた刹那の言葉は、そんな予測を遥かに上回るような言葉だった。
「中央政府に、星天界へと続く道があるのを知っているか」
何を言っているのか、分からなかった。
星天界へと続く、道?
星天界は、柊葉達が暮らす世界とは隔離された空間にあるはずだ。
世界と星空の中間地点にある、神聖な空間。幼い頃からそう言い聞かされて育ってきた。それを疑おうと思ったことすらない。
この世界の常識――常識以前の、この世界の大前提さえも、中央政府によって書き換えられている、情報が操作されているとでも言うのだろうか。
動揺して二の句が継げない柊葉の反応を面白がるように、刹那は話を続けた。
「正確には道というよりも、転移ゲートのようなもの、と言った方が正しいが。中央政府の保有する、星天界への直通ゲートがあるそうだ。
名目上は神様の力で繋げていることになっているが、その真相は分からない」
星天界が神聖な場所だという世間様のイメージが、崩れないよう、その場所は隠されていたのだが――机上に置かれた鍵の束を手に持ち、刹那は告げる。
無造作に揺らされた鍵が、シャラン、と金属特有の音を鳴らした。
「私の協力者が、そのゲートの場所を教えてくれてね。私に使わせてくれるそうだ」
手に持った鍵が、ゲートを使用するためのものなのだろう。
協力者、という馴染みのない言葉に、柊葉は微かに眉をひそめた。
不正は許さない、中央政府に革命を起こす、なんていう刹那の思想に賛同する者がいるのだろうか。それは、本当に信用出来るのだろうか。
「私からすればとても有難い話だが、無論彼らにもメリットは存在する。このゲートを使うには、多大な代償が必要でね。神聖な場所、というのはあながち間違いでもない。何せ、神様が封じられている場所なのだから。
だから、その代償を支払いたくない彼らは。簡単にゲートを使えないんだ。勿論それは、中央政府側の人間も同じこと。
ただ、例外が一つだけあって。私達星巫女は、星天界への立ち入りを許されている、神様に拒まれない存在なんだ。つまり、何の代償も払わずにゲートを使用できる」
その協力者は、刹那が彼らに星天界の情報を提供することを条件に、ゲートの場所と鍵を渡したのだという。
それによって刹那は、いつでも好きな日に、好きな時間に星天界に行くことが出来るらしい。
他の星巫女がいれば、面倒な案件もあるからね。笑みを浮かべたまま、刹那はそう語った。
「以前、霊安室を発見した頃。私が異常に召喚されたと話した時期があっただろう?あれも、調査を進める目的で、自分の意思で星天界を訪れたことだ」
彼女が鍵を手に入れたのは、そんなに前のことなのか。
星巫女でいるときは、可能な限り彼女と行動を共にしていたけれど。自分の意思で星天界を訪れているだなんて、一切気付けなかった。
星天界が、中央政府の管理下にある、ということは。中央政府に、星巫女達は監視されているということだろうか。
そんな考えが頭を過って、息が止まった。
もしそうなら、柊葉は許されないことをしている。両親の命令に背いて、刹那に協力している。
柊葉は、自分の父親の冷酷さを知っている。中央政府でどんな役職にあって、今までどんな汚い手段を使って成りあがってきたのかを知っている。
自分に不都合な存在があれば、殺すのも躊躇わないような人だ。もし刹那の考えが、彼らに知られれば。いくら刹那といえども、きっと無事では済まない。
そんな柊葉の思考を読んだかのように、刹那が口を開いた。
「……中央政府に監視されているかもしれない、とのことだが。星巫女でない人間がゲートを使うには、代償が必要だと言っただろう?
普通の人間がゲートを通れば、元の世界に戻ってきた瞬間、対価として命が失われる。ゲート以外に星天界の様子を確認する手段は、おそらくない。
星天界が中央政府の管理下にあるのは事実だが、監視することは出来ない。仮にも、神様がいらっしゃる場所だからね」
だからこそ協力者も、私に鍵を託せたのだろうけれど。
そんな言葉で、話が締めくくられた。
もし彼女の話が真実ならば、腑に落ちる点がある。
刹那の話によると、星巫女を務めることによって命を落とすことは、決して珍しくはないことで。
だけど、柊葉達の前の代の星巫女の遺体は、霊安室には残されていなかった。星天界を探しても、それらしき場所は見つからなかった。
星空へ投げ出されたのか、なんて考えていたのだけれど――中央政府が管理しているとなれば、頷ける。
おそらく、一代の星巫女の任期が終わった後。中央政府に選ばれた人間の命と引き換えに、星天界の遺体が処理されているのだろう。
遺体だけでなく、その他中央政府に不都合になりそうな情報の証拠なんかも。
かつての星巫女に何があったのか、書き残した一枚のメモすらも見つかっていない。先代の星巫女が存在していた跡は、ほんの僅かにも残っていない。
まるで、星巫女が代替わりするごとに、星天界が生まれ変わっているかのように。
だけど、今の神様にはそんな力はない。つまり、中央政府が自分たちの手で、星天界から一切の前代の星巫女の痕跡を消しているのだろう。
今の人間が使えるのは、僅かに残された神様の力と、神様を封印した日に手に入れた力だけだった。
「この話は、他の星巫女に共有するべきなんじゃないのか」
迷った末に、そう口を開いた。
ゲートの件は確かに、中央政府に関わっていない星巫女にとっては関係のない話かもしれない。
だけど、星天界が神様ではなく中央政府の管理下にある、なんて。星天界で儀式を行う星巫女当人にとっては、大きな問題だろう。
星巫女を取り巻く現状の原因が、中央政府である可能性がある。その認識は、全員で共有すべきではないのか。
しばらく考え悩んだ末に、柊葉はそう口にした。
「どうして話す必要がある?」
柊葉の言葉に返ってきたのは、心底不思議そうな刹那の声だった。
「今の星巫女がすべきことは、出来るだけ自分が生き残る確率を上げることだ。生き残れば勝ち。星巫女に選ばれた時点で、そんなゲームに巻き込まれた。他の星巫女は、蹴落とすものくらいに思っておいた方がいい。
星巫女が命の危機に晒されている現状で、情報は一番の武器となる。情報は、伏せられているからこそその価値が生じる。どれだけ苦労して手に入れた情報も、広く知られてしまえば無価値に変わってしまう。そのことは分かるだろう?」
ただ淡々と、自分の利益のためだけに。自分が生き残るためだけに、刹那は話をした。
彼女の話が、理解出来ないわけではない。どこまでも論理的で、正しいことを告げている。
だが、普通の人間は。それを実行しようとは思わない。
柊葉の目に映った刹那は、異常に見えた。自分が正しいと信じ、それを微塵も疑わない。自分のしようとしていることに、全く罪の意識を感じていない。
もし、柊葉が利用できる存在でなくなれば。きっと呆気なく捨てられてしまうのだろう。
辿り着いたのは、そんな結論で。怖気が走った。
「他の星巫女を蹴落としてまで……刹那は、何がしたいんだ」
他の星巫女を蹴落とす。それは、助けられる命があっても見殺しにする、間接的には殺すことも厭わないということで。
犠牲を出してでも成し遂げたい目的とは、何なのか。ただ、中央政府を壊したいだけなのか。
「私のすべきことは、初めから何も変わっていない。この腐った世界を、根底からひっくり返すことだ」
柊葉の問いかけに、そう答えた刹那は。
当然のことを言っているかのように、綺麗な笑みを浮かべた。
その笑顔は、作り物ではなかった。
自分の掲げる正義を信じて疑わない、心からの笑みだった。
𝕋𝕠 𝕓𝕖 ℂ𝕠𝕟𝕥𝕚𝕟𝕦𝕖𝕕...
₊*̥┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈☪︎₊*˚
✯𝕃𝕪𝕣𝕚𝕔✯
⚜️御伽話は
さっき死んだみたい
⚡煉瓦の病棟でうまく歌えなくて
⚜️霧に煙る夜 浮かべ赤い月
⚡ほらみて 私を
⚜️目を逸らさないで
⚡⚜️黒い鉄格子の中で
私は生まれてきたんだ
⚜️悪意の代償を願え
望むがままにお前に
⚡⚜️さあ与えよう正義を
壊して 壊される前に
⚡因果の代償を払い
⚡⚜️共に行こう 名前のない怪物
✯ℂ𝕒𝕤𝕥✯
♌︎Leo #星巫女_柊葉
⚡️柊葉(cv.希咲妃)
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♐︎Sagittarius #星巫女_刹那
⚜️刹那(cv.ハナムラ)
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₊*̥素敵な伴奏をありがとうございました☪︎₊*˚
➴bataojisan様
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✯𝕋𝕒𝕘✯
#Astraea #星巫女
#名前のない怪物 #PSYCHOPASS #サイコパス #EGOIST
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