【和風】【声劇】銀の根付け
ナオミコ
【和風】【声劇】銀の根付け
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本条高虎(ほんじょうたかとら)(70)
本条かや音(ほんじょうかやね)(10)高虎の義娘
〇本条家門の前
T・江戸時代
門の前に本条かや音(10)が仁王立ちしている。家の中にいる本条高虎(70)
と向かい合っている。
高虎「おめーはまーた村の坊主共と喧嘩してきたのか!」
かや音「うるせぇっ!あいつらが女は武士になれねえなんていうからだ!あたしはこの村
ん中じゃ一番強い。そのことをあいつらに証明してやったんだ!」
高虎「かー……」
高虎、自分の額を右手で押さえ、大きくため息をつくようなポーズをする。
高虎の心の声「10年前に胎盤ごと捨てられていたこいつを拾い育てて、男手一つで女
らしく育てようとやれることはやったはずだが一向に女らしく育たねえ……!」
伏せた目を開けるとかや音の頬に手を伸ばす。
高虎「嫁入り前の娘が傷作るもんじゃねえ」
かや音「高虎……」
怒っていた表情とは打って変わり、かや音、ふいを付かれたように大人しくなり高
虎を見つめる。
高虎「家ン中入れ。今メシ作ってやっから」
かや音「……うん!」
〇同家・居間
空になった土鍋。
高虎とかや音、食べ終わる。
かや音「ふーっ、食った食った!やっぱおやじの作るメシはうめえなぁ!」
高虎「へっ、さっきまで生意気な口叩いてたやつがどの口で言ってやがる」
かや音「へへっ、あたし気ぃ変わるの早いんだよねー。さっき怒られたことなんてすーぐ
忘れちゃうんだもん。さっ!」
かや音立ち上がる。
かや音「実はさ、高虎に渡したいもんがあんだよね」
高虎「あ?」
着物の袷に手を伸ばすと、中から古い布にくるまれた手の平サイズの小箱を取り出
す。
かや音「へへ」
照れくさそうに右手に乗せた小箱を高虎の目の前に差し出す。
かや音「ほら」
高虎「……」
あっけに取られた顔で小箱を受け取ると、布を開く。
はっとした顔の高虎。
高虎「お前……こりゃあ……」
かや音「高虎こういうの欲しいって前にちょろっと言ってたもんな!……どう?」
小箱の中身は銀の根付け。
炉の灯に照らされ一瞬で赤く光る。
高虎「お前こんなもんどこで」
かや音「ホラあたし村のおばちゃんとこで家事手伝いの仕事を週に何度かやってるだろ?
そこで貰ったお金ちょっとずつ貯めて市で買ったんだよね。まぁおかげで貯めてた金は
全部無くなっちまったけどさ」
左手を頭に添え、破顔する。
高虎「……」
かや音「な、なんだよ」
小箱から根付けを取り出す高虎。
高虎「俺は……俺は人生でこんな綺麗なもん貰ったことがねぇ……。ありがとよ、かや音」
高虎が目を伏せると、一筋の涙が頬を伝う。
高虎「お前を道端で見つけて拾った時にゃあ正直不安だった。かかあにも息子にも先立たれたこの俺が一人でちゃんと育てられるんだろうか。やっていけるんだろうかってな。一度お前が5歳の時に近所の女の家に引き取ってもらおうとした。それがお前の為になるんだと思ってよ。でもだめだった。お前は夜更けに一人で泣きながら帰ってきちまった。裸足で足血だらけにしてよ。それで思った。こいつが嫁に行くまでは俺が一人で責任持って育てるって」
かや音、話を聞きながら泣いている。
高虎「上出来だ。俺の子育ては上出来だったぜ」
かや音の頭に右手をポンと乗せ、破顔する。
高虎「ありがとよ。大切にするぜ」
小箱に根付けをしまうと、部屋の木箱の中にしまう。
かや音「う、うん」
かや音、涙を拭うと笑顔になる。
高虎「さあ、メシの片づけだ。メシは片づけが終わるまでがメシだからな。ほら、泣いて
ねえでその土鍋、持ってこい。外で洗うぞ」
かや音「うん!おやじ!」
高虎とかや音、土鍋を持ち上げると二人で家の外へ運ぶ。
〇同家・外
二人共笑顔に溢れている。
かや音「おやじ、あのさあ」
高虎「あ?」
かや音「今度はあたしの欲しい物言っていい?」
高虎「なっ、……せっかくいい感じで終わったのによ。お調子者でずうずうしいったらねえ
ぜてめえは」
呆れ顔の高虎と笑顔のかや音。
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