俺の彼女

宇多田ヒカル

”今日は遅かったのね“ なんてことは言わない。ちょっと遅いだけで文句を言ってしまうような女にはなりたくないから。 だってそうでしょう？ 遅かったのね、なんて言ったら、あの人を信頼していないみたいじゃない。 遅くなるようなことがあったの？何があったの？誰と会っていたの？もしかして女？ 一つ聞いてしまったら、不安に思うこと全て、聞いてしまいそうで。そうしたら、夫を信頼している賢く利口な妻では無くなってしまう。 私はそんなに物分かりが良い方では無いし、気にしない性格でもない。神経質で心配性で、自信なんていつも無い。 でも私はあの人の妻だから。 信頼しているから。 疑いたくないから。 疑っていると思われたくないから。 そんなことで不安に思ってしまうような弱い女だと気づかれたくないから。 こんな弱い私を知ってほしくないから。 きっとそんな私を見たらあの人は愛想を尽かしてしまうだろうから。 そうなってしまったら、私のことを好きではなくなって、別れを切り出されてしまうかもしれないから。 好きだから、そんな結末は耐えられないから。 恐ろしくて聞けやしない。 もしあの人が、聡明で、何も言わず察してくれる冷静なあの人が、無駄話にも付き合ってくれる面倒な女を許してくれる人であるなら。 もし、あの人が本当は無口ではなくて私と同じくらいな人間であったなら。 少しは素直になれるだろうか。 【旦那さんメモ】 妻大好き。休日はできればずっと一緒に居たい。 妻と一緒に居たいあまり、3時間勤務に憧れてCEOになったのに、仕事がなぜか次からやってきて全然帰れない。自分の部下に仕事を押し付けまくっても帰れないので、最近はずっと機嫌が悪い。朝帰りが多すぎて、勘違いされてないかちょっと心配。 早く帰らせろ。そして家でゆっくりさせろ。できたら妻のひざまく…(以下略)。