彼女は冷たい棺の中で
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彼女は冷たい棺の中で
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私には、兄がいる。
国でも有数の剣技を駆使する彼は、私のヒーローだった。
“そいつ”は私を襲った下賎な男。抵抗して、抵抗して、やっとの思いで男の腕から逃げ出した。そうして、次に聞こえたのは、ごん、ぐちゃと何かがぶつかって潰れる音だった。
「ベル!ベ…ル…?」
「に、さん……」
兄は目の前に広がる血の海に唖然としていた。犯人はどう見ても私だった。
不意にぐいと腕を引かれる。そうして、気がついた時には、兄と私の立場は入れ替わっていた。
どうして、そう口に出すよりも前に、なんだなんだと不気味な音を聞き付けた観衆が集まってくる。
──人が死んでる。
──あいつか、あいつが殺したのか。
──ライヒェだ!人殺しはライヒェに落ちろ!
何も知らない観衆は兄に向かって口々にそう言った。私は耳を塞ぐことすらも出来ずに、ただ呆然と立ち尽くす。兄はへらりと笑った。
「そうだよ。俺がやった。大事な妹を襲われたんだからね」
観衆の罵声が一層高まる。兄はそれ以上、何も言うことはなかった。
私には兄がいる。
彼は真っ白な羽根を真っ黒に変えて、この大地の下できっと今も剣を振っているのだろう。
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