「基本はビラ配り」(秋那兎完結)
秘密結社 路地裏珈琲
「基本はビラ配り」(秋那兎完結)
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秋那兎さんのアンサー↓
https://nana-music.com/sounds/04ec9e82
よく晴れた青空に、白い雲のコントラストが爽やかな日だった。賑わう商店街の一角、巡業中のサーカス団が寄越したピエロと誰かが、ミカンをジャグリングして張り合って居る。
「よっしゃー!4個で成功したらみんなチラシ持ってってよね!」
「お姉さんいいー?投げるよー?」
「待て待て待て、しれっと一個グレープフルーツ混ぜんな白塗り!!」
時折わっと、歓声と笑い声が上がる度、彼女が箱に入れて積んでいたチラシを、通りすがりのギャラリーがチラホラ持って帰った。人を集めて、その上幸せにするのなら、笑顔が一番に決まってる。ひとしきり働いてピエロと2人、どっかり石畳みに足を投げ出し一息ついている彼女、秋那兎に、少年が嬉しそうに走ってやってきた。
「ねえ!これあげる」
「へ?」
少年の手には、パステルカラーのつややかな丸、色取り取りの風船が握られていて、1つ差し出し、受け取るようにと催促する。
「さっきのすごく面白かったから、おれのオゴリ!」
「はは、太っ腹だねぇ〜!」
「その紙ちょうだい、いいことおしえるから」
少年は、この風船は伝書鳩なんだと言った。母に教わった遊びで、これに大好きな花や手紙をつけて、どこか遠いところまで運んでもらうのだという。
「どうする、外国まで飛んでって、お客さん連れて来ちゃったら!」
「来ちゃうかなー、それはそれで嬉しいな」
くるりと巻かれて、風船とともに空へ旅立つ一枚のチラシ。小鳥の飛び交う穏やかな空を、ふわりふわり。風に乗って航海するシルエットを、ピエロと3人、姿が見えなくなるまで、手を振り見送った。
...さて。
ここからは、通りすがりの鳩が見かけた話になる。
帰ったらオヤツが待っている。空っぽの箱を見せれば、きっとたんまり焼きたてのお菓子を用意してくれる筈だ。そんな秋那兎の無邪気な期待が沸き上がっていた、ちょうどその頃の事だった。風船は、とある家の窓にたどり着く。
「......。」
か細い腕が、そうっと、3階の小さな窓枠にかかった、細いタコ糸を引き入れて、風船をするりするりと手繰り寄せてゆく。無機質で、生気を感じさせない無気力な指先に、糸が絡み付いていた。
「...路地裏、珈琲」
ぽつりと呟いた独り言を残して、窓がゆっくり閉まる音がしたけれど、鳩だけが、首を傾げてそれを見ていた。
あの風船は伝書鳩、果たして届け先の主は...
* * * * * *
※なんだかどこかで、事件の予感...。
この先、依頼に影響が出そうです。
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