月を食べてみる。そのままでは食べにくいので、手で半分に割ったらボロボロと崩れてきてしまった。宇宙にあんまり汚すなと叱られないように、今度は優しく慎重に齧る。真夜中と真空の味がした。これだけでは何か物足りなくて、地球から青だけ掬ってかけた。美味しくはないけれど大気汚染の味が足されて何故か安心した。ザクザクと噛んでいたら何か別の食感を覚えて手に吐き出してみる。それは星条旗だった。捨てる気になれなくて、近くの名も知らない惑星に刺してしまった。それから次第に食べたことへの罪悪感が湧いて、月の代わりにそっとその惑星を置いた。そう言えば丸々一つ食べて見つけた旗はこれだけだった。どうやら私が食べたのは、月の身代わりにされた惑星だったらしい。一体本物の月はどんな味がしたのだろう。一体幾つの惑星が身代わりにされてきたのだろう。