Lyrics Dのブルース 友部正人
Written by
友部正人
Composition
友部正人
暗闇から取り出した自画像を
食卓の上において眺めてみれば
昨日よりものびた無精髭に
見なれぬニキビがまぎれ こんでいる
夕方に「おはよう」とやって来て
明け方に「おやすみ」と帰る彫刻家は
新聞紙にくるんだ奴豆腐を
ミロのビーナスのように差し出した
Dのブルースをやるだけなら
あんなにたくさんの鍵盤はいらなかったのに
Dのブルースには二階が似合うからと
重いピアノを階段から 押し上げた
花の咲いた夏の庭
早々と散らした黒髪を
ほうきとちりとりでかき集め
ズボンのポケットに入れた君
夏は台所の窓からやって来て
ぼくらの間に割り込んでくる
口をきかぬまま汗ばかりかき
割れて砕けた二人の時間
笑っているのかと思ったら泣いていて
泣いているのかと思ったら笑ってた
自画像ばかりを描き続けたぼくを
君は本当は怒っていたのかもしれない
また夏の日がやってきた
だけどあの夏の日はもう二度とやってはこないだろう
君がぼくの腕に包帯をして
それからDのブルースを弾き始めたあの夏は